違いの判らない絵師が間違いやすいもの3つ

当たり前ですが、素人は何も知りません。

たとえば俺自身、スポーツの類あらかた素人なので、フットボールのこととか何も知りません。
アメフトとラグビーの違いとか分かんないです。

似たようなので、「WindowsとiOSの違い」「パフェとサンデーの違い」「ポトフとミネストローネの違い」「ミキサーとフードプロセッサーの違い」「都市ガスとプロパンガスの違い」とか、まぁ、探せば区別しづらくて紛らわしいものなんていくらでもありますね。
特にガスの違いは区別できないと命すら危ないはずなんですが、それでも分からない人には分かりません。

なんで分かんないのかというと、もちろん素人だからです。
そんなとき玄人は「分からないなら調べればいいじゃない」と簡単に言いますが、でも素人は素人なので調べるところからまずできないことも多いです。
どこが分かんないかがまず分かんないといった系です。

アメフトとラグビーの違いが分からない人は、だいたい[アメフト ラグビー 違い]と検索すると思います。
で、アメフトとラグビーの相違点を解説したページはいっぱいあるので一応読むんですけど、なんか納得できないんですよね。
なぜかというと、アメフトとラグビーの違いが分からないという疑問を持つ人の多くは、別に具体的にどこがどう違うのかが知りたいのではなく、本当は見た目が同じなら一緒でいいはずなのに、なぜ別物扱いするのかが知りたいのであって、具体的なルールの違いとかぶっちゃけどうでもよかったりする人も多いからなんです。

でも、素人は素人なので、自分がそういうふうに感じていることを巧く言葉にはできません。
スポーツに詳しい方は、今度その質問を受けたらよく聞いててほしいのですが、質問が「アメフトとラグビーってどう違うの?」ではなく「アメフトとラグビーって何が違うの?」であるケースがけっこうあるはずです。
その場合本人は「区別する必要なんかあるの? 実は同じものなんじゃないの?」と聞いているわけです。

パソコンに詳しい人で「WindowsとiOSが違うものである必要があるの? 一緒でいいじゃん」と思う人はいないし、詳しい人ほど、まさか素人がそんなふうに思ってるとは考えません。
仮に分かってもそこまではさすがに答えられないことも多いです。
(ちなみに調べてみたところ、アメフトとラグビーはどちらもフットボールという同一のスポーツであり、アメリカルールを採用したものをアメフト、イギリスルールのものをラグビーと呼ぶそぉです。だったら「全然違う!」とか言い張るヤツはありゃいったいなんなんだっつーね。あとWindowsとiOSが違う製品なのは利権の問題です)

イラストスキルの場合、実はこの「なんでその2つ違うの? 一緒でいいじゃん」が非常に危険で、そこが区別できないと引っかかるトラップがわんさかあります。
違いが分からないどころか、「それぞれ違うもの」ということすら理解できなくて、そのせいで何年もスランプになってしまうなんてのも実はけっこうザラです。
概念的に言葉がちゃんと分離してなくて、もともと紛らわしいものだったりするケースもありますし。

というわけで今回は、そんな紛らわしいもののから、いくつかを説明します。
目次としてはこんな感じ。

1. 写生と模写とデッサン
2. デッサンとポージング
3. 「コマ割り」という言葉の本当の意味

1. 写生と模写とデッサン

まずはこれ。
別に区別できなくても実力アップ自体にはそんなに支障はないのですが、ただ言葉の意味をめぐって喧嘩になったり、そのせいでスランプ期に入る人もいます。
こまっかい意味の違いで言い争いとかした経験がある人もいると思います。
ぶっちゃけくっだらないです。

写生も模写もデッサンも
全部同じ意味だっつーの。

日本国内で使われだした時期の違いで、言葉がたまたま分かれてしまったのです。
現在では、「風景を描くことを写生」「完全コピーするところに重点をおいたものを模写」「専門のモデルさんを描くことをデッサン」と区別する人が多いですが、これも別に絶対ではありません

実をいうと俺も区別した方が便利だから上記の意味で区別してるんですが、とはいえみんなが同じ意味で使っているとはかぎりません
かつ、言い張る人ほど他人とは微妙に違う意味で使ってる傾向があります。
「それは模写じゃなくて写生だ」とか「ああ、デッサンじゃなくて模写ね」とか、わざわざ後輩に言い直してあげて、しかも意味の説明をスカッとかっ飛ばして後輩を悩ます先輩とかたまにいますけど、それ、カッコつけて恥かいてるだけですから! かっこわら!

写生と模写とデッサンは全て同じ行為を示す言葉ですが、同じ意味で使わなきゃいけないって決まりもないから、みんな自由に区別してるだけってわけです。

ちなみに、デッサンとクロッキーは明確に違います。(別にあえて言うことでもないかもですが)
クロッキーは日本語では「速写」といったり、または「粗描」といったりします。

デッサンとクロッキーは、絵を描くという着点には違いは特にないのですが、正確性に重点を置いた訓練を行うことをデッサン(または模写、写生)、スピードを重視する訓練の場合がクロッキー(速写、粗描)となります。

あとついでに、紛らわしい言葉で「スケッチ」もありますが、これは「デッサン」と「クロッキー」がフランス語であるのに対し、スケッチだけは英語で「風景を粗描すること」という意味の言葉です。
「写生 = スケッチ」と考える人も多く、俺自身もそう言ってはいるものの、厳密には実はちょっと違います。写生は呼んで字の如く「ありのままを写す」という意味ですが、スケッチはどちらかといえば「ざっくり描く」という意味だからです。
それから「粗描(そびょう)」と「素描(そびょう)」が同音異義語だったりとか、日本の芸術家の言葉下手は昔からだったってことなんでしょうかね。

2. デッサンとポージング

次はこれ。
さすがに言葉の意味を勘違いしてる人はいませんが(いないよね?)、ただ、デッサンができればキャラのポージングもできると勘違いしている人は一部います。

「今まで一生懸命デッサンやってきたのに、なぜかポーズが思いつかないんです!」って人は多いです。
で、そのまま挫折してしまう人もいたりするので、このあたりは早いうちに明確に違いを区別できた方がいいでしょう。

といっても、別に知識として知ってればいいだけのことなので難しいことはなんもありません。

特にポージングの分野は、ある特定の条件を満たす人だけを悩ませます。
美術部に部員が10人とかいたとすると、その中のごく何人かが「ポーズ」が巧く決められなくて悩むわけです。
でも他の大勢は(あまり)悩んだりしませんから、描けない人達がなぜ描けないのかが理解できない、ということもあります。

一般に多くの場合、インドア興味しかなく、かつオシャレに自信がない人はポージングができません。
正しくは「人が動いているのを見ること」に興味がない人ですね。
イラストを描くということ趣味自体がもともとインドアな趣味だし、当たり前ですが被写体は停止していた方が絵は描きやすいのです。
なので中には、「動くものを描く」ことに意識が向かない子もいるわけですね。
(オシャレに自信があれば大丈夫なのは、そういう人は自分が他人からどう見られているかを気にするからです。そういう人は普段の仕草などが自然と人から見られて恥ずかしくないものになるし、カッコいいポーズの研究を無意識にやるので、それが絵にも反映されるのです)

ポーズとは、人の動きの途中を止めて描いたものです。
ですから「人の動き」に興味のない子が人の動きを考えられないのは当たり前のことで、心当たりのある人は、「デッサン力とポーズを考える力は全然違うもの」と考えることがその第一歩になります。

これを解決するには、人の動きに興味を持つのが一番です。
何か好きなスポーツがあるなら積極的に見に行ってもいいし、舞台鑑賞でもミュージックビデオでも映画でもアニメでも構いません。
ただ、ストーリーや全体の流れを追いかけるだけでなく、あくまでも「体の動きに注視する」という意識を持つことが大事です。
オシャレに興味がなくはなく、ただ自信がないだけの人は、今まで以上に服装に凝ってみてもいいです。

そういう習慣が3~4ヶ月も続けば、徐々に「ポージングを考える」ことが身についてきます。

逆にいえば、人間の「体の動き」を日ごろから注視している人は、ポージングを比較的早く覚えるわけです。
「動いてる人」なんて、玄関から一歩外に出ればいくらでもいますからね。

それともちろん、解剖学の知識を修了していることは大前提です。
たとえ萌えキャラや3等身キャラなんかを描く場合であっても、「カッコよく描きたい」のなら筋肉の動きをキチンと把握できている必要があります。
なぜなら、解剖学の知識自体が、どちらかといえば「人間の体がどう動くのかを知る」ためのものだからです。

3. 「コマ割り」という言葉の本当の意味

最後。
ご存知、マンガを描くときに原稿のコマを分割する方法論のことです。
マンガ雑誌に相談コーナーを作ると、「コマ割りが分かりません」という質問が大量に届くのだそうです。

そりゃそだわ。
ほぼ大部分の初心者はコマ割りとは、コマを割ることだと思ってますからね。

ネットで「コマ割り」とかで検索してみると、本当にコマの割り方しか解説してないページが大量にヒットします。
これが口頭での質問であれば、たとえば後輩から「コマの割り方が分かりません」と聞かれて、「原稿に定規を充てて、四角になるようにペンを滑らせればいいよ!」と答える先輩は世界中探したって絶対いないと思うんですけど、Webだとそういう解説ページの方が圧倒的に多いわけです。

かといって、だったら簡単じゃんとか思って適当に引くと、「できてない!」と評価が返ってくるんです。
しかもプロが書いた教則本を読んでも、割と「感覚的なものなので経験を積んで覚えるしかない」とか書いてあるんですよね。
どないせーっちゅーんじゃwww

まぁ、そうはいってもね、上手に説明できないこと自体は別に犯罪ではないので、説明する側を責めてもしょうがないです。
とりわけ絵の巧い人は、絵で説明するスキルが極端に育っている分、文章や言葉で説明するのは逆に超絶下手クソな人の方が多いです。
それはそういうものなので、そこはもう「そういう世界だと分かってて飛び込んだんでしょ?」としか言いようがありません。

で。
一般にコマ割りと呼ばれる作業ですが、実際には以下の作業の総称のことをいいます。

1. 物語の内容から必要なコマの大きさを決定

ストーリーを、どうイラストにすれば読者に伝わるかを考え、思い起こしたイラストを頭の中でリストアップします。
で、その中で重要ゴマは大きく、逆に捨てゴマは小さくという観点で大きさを割り振ります。
(そのシーンの流れを文章1文で表現しようとしたとき、5W1Hに相当するものを説明するコマは大きく、それ以外を小さくするのが基本です)

2. 決定したコマを原稿用紙に配置できるかどうかを考察し、調整を繰り返す

ここまでは頭の中でやるしかないですかね……。
原稿面に巧く配置できそうにない場合、理由としては重要ゴマの数が多すぎる重要ゴマが少なすぎるやりたいことが膨らみすぎてテクニックが追い付いていないなど、様々な理由が考えられます。

3. 実際に線を引いてネームに落とす

4. 視線誘導の確認

失敗した場合は必要に応じて 1. ~ 3. からやり直します。

1つ1つの作業に知識や慣れが必要で、「コマ割り」などという小さな言葉に、よくもまぁこんな大きな意味を詰め込んだもだと思います。

とりわけ、コマ割り作業の中で一番難しいのが視線誘導の確認でしょうか。

マンガはいくつものイラストの連続で出来ており、かつ、コマの大きさにも統一性がありません。
つまり、コマの大きさや配置がバラバラであっても、読みやすくする工夫が必要なのです。

コマが不規則なのに視線誘導ができていないマンガって、本当に最初の1ページ目を見ただけでほぼ本能的に「なんか読みにくそう」って一発で分かりますからね。
人に見られたときに飛ばされてしまいがちになります。

具体的には、

A. 「マンガのコマは基本的に逆Zパターン配置である」という思い込みに従って目を動かしてしまう
B. 重要な情報重要でない情報が明確になっていると、多少描き込みが多くても「すっきりしている」と感じる
C. 目立つ物から順に目で追ってしまう

などの、人間がついやってしまいがちな習性を利用し、読者の視線を意図通りの方向に向けるように仕向けます。

A. の逆Zパターン配置は、多くの初心者が最初に使うテクニックだと思いますが、これだけだとなぜか読みやすくなりません。

ですので、コマの内容にメリハリをつけることが重要になります。
コマの種類を、たとえばですけど、ざっくり「決めゴマ」「重要ゴマ」「読み流しコマ」「捨てゴマ」の4種類くらいに分けて大きさや密度に差をつけ、どのコマがどれなのかが見れば分かるようにしてあげます。
各シーンの決めゴマは、誰でも自然に大きく強調すると思いますが、ページごとの重要ゴマもそういう工夫が必要というところまでは意識が回らないことが多いです。

また、とりわけ絵に自信がある人ほど「読み流しコマも捨てゴマも全て描き込みが多い」なんてことをやり、すごく読みにくく仕上げる傾向があります。

かつ、なるだけ目立つ要素がページ内でゆるやかなカーブを描くように並んでいるようにするのもコツです。
重要ゴマがあちこちに散在しているなど、読者に目の筋肉がつらいと思わせてはダメというか。
目立つコマは、目の筋肉を楽に動かせるよう、工夫して配置します。


さて――。

これはなんにでもいえることですが、「デッサンとポージングの違い」にしろ「コマ割り」にしろ、別に知らなかったからといって誰もがつまづくというわけでもありません。
初心者のうちは誰しも本当に右も左も分からないのが当たり前だったのが、やっていくうちに自分で何とかしてしまう子そうでない子に別れるということは、そこに何らかの「違い」があるということです。

その「違い」が、現実には家庭環境のせいだったりする世知辛い世の中ではありますが、だからといってレベルアップできないのを社会のせいにしていても話が先に進みません。
心構えとしては、引っかかったトラブルから脱出できないのは自分のせいと常々思うべきだし、そうでなければ厳しい競争社会では生き残っていけません。
自分が絵が描けない理由を「生まれつきのセンス」のせいにするとかホントもう最悪です。

ちょっとしたトラブルに引っかかってレベルアップが止まりがちな人は、そういうところが自分にないか、少し考えてみた方がいいでしょう。

Leave a Comment

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です