いいから描くコツを教えて! という強情な人に何と答える?

そんなにたくさんいるわけじゃないんですけど、たま~に「パパッと簡単に絵が描けるようになりたい」って人いますよね。
たいがいは「別にプロになるわけじゃないし、そこそこでいい」とか言う人。

でも話を聞いてみると、その人の言う「そこそこ」のレベルがとっても高かったりするわけです。
「そのへんの漫画家くらい描ければいい」とかね。
そのへんの漫画家は普通に絵のプロフェッショナルなんだから、つまりパパッと簡単にプロになりたいとかほざいてんの? って思うんだけども。

ようするに、ある程度までは描けるようになりたいけど基礎練習はイヤってことなんですよね。
「基礎練したくないからそこそこのところで妥協します」ってことです。
派生形として、「特定のキャラだけでいいから練習しないで上手に描きたい」って人もいます。

そういう人の中には、本当に「ちょっとした知識があれば描けるはず」と信じている人もいて、たまに「どうやればいいですか!?」とか期待のこもったキラキラした目で聞かれるとちょっと困ってしまいます。

なんせ相手は、簡単にパパッと上手になる方法が知りたいと思ってますからね。
そんなものはないんだよ、ということを説明するのがまたタイヘンだったりするわけです。

というわけで今回は、そういうときに「これとこれを練習すればいいよ」と答えればいいという話。
もちろん、質問されたときにどうケムに巻くか、という意味です。

1. ヘタウマイラスト

いわゆるヘタウマ系っていうイラストありますよね。
こういうやつ。

マインドウェイブ社の一期一会というピンナップイラストのシリーズの1枚なんですが、グッズ展開向けとしてはかなり有名なブランドです。

個人的には、「イラストを構成する『デッサン』『色彩』『ディテール』『デザイン』『テーマ』の五大要素について、プロレベルに達している要素と素人並みの要素の落差が激しい絵」のことをヘタウマと定義しています。

上記のシリーズなんかは、割とヘタウマ系の代表なのではと思います。
この絵も、線が割とぐちゃっとしてて、絵面的には「自分にも描けそう」に見えます。
実際には、さりげなくパースを駆使していたり、かなり繊細な構図設計になっていたりして、正直ここまで描ける人が線すらまっすぐ引けないとか、わざとに決まってんだろと思うんですけど、でもそれはあくまで経験があるから言えるのであって、素人さんには簡単に描けそうに見えるわけです。(もともとそういう狙いの絵柄ですからね)

つまり一期一会と同じレベルのイラストを量産するにはデッサン・色彩・ディテール・デザイン・テーマを全てプロレベルにしておかなければいけないわけですが、「近しい絵」を描くだけなら以下の要素を習得すれば大丈夫です。

1. デッサン

最低限でOK。
一期一会シリーズにはたまに見下ろし構図もありますが、そういうのでなければハイレベルな描画力は不要です。
とりあえず「ちょま」っとしたかわいい感じに描ければ大丈夫。
「かわいいボールペンイラストの描き方」みたいな、ちょま系イラスト専門の教則本もあるので、薦めてあげてもいいかもしれません。

2. 視線誘導

一期一会シリーズの場合、視線誘導はかなり駆使されています。
個人的にはおまえはどこの神だってレベルなんですが、とはいえ、そういうんじゃなくて「とりあえず似た絵を描きたい」だけなら視線誘導は不要です。
ですが、ちゃんと感動できる絵に仕上げたいなら必須です。

3. フェイス率

ほろっとするお涙ちょうだい系のイラストが多いため、テーマ性に関してかなり深い知識が必要です。
とりわけフェイス率は、1%ずつ調整するくらいの繊細さが求められます。
 
フェイス率とはイラスト全体に占める登場人物の顔の面積のことで、この値を大きくすると感情描写がやりやすくなります。
逆に小さくすると、状況を客観的に見せる表現がやりやすくなります。
パチもん臭くてよければそこまでの力は不要ですが、少なくともフェイス率の高い構図設計には慣れておく必要があります。

4. カラープラン

一期一会シリーズは、わずかにビビッド寄りのパステルカラーという、微妙な色が選択されていることが多いです。
これも、青春という統一テーマを女の子視点で描くうえで、「タッチはヘタウマでも雰囲気をリアルにするにはどうすればいいか」という方法論を模索した結果であって、好みで何となく塗ってあるわけではありません。
少なくともパステルカラーとそれに近い色について、どんなテーマカラーを選べばどんな雰囲気の絵になるかが分かっている必要があります。
ただしこれも、雰囲気が何となくそれっぽいだけでいいのなら、これぞと思った色を適当に塗ってみるのも手でしょう。

普通だったら、ここまで説明すれば「ヘタウマ系イラストは下手なだけの絵じゃない」ことが分かってもらえるとは思います。

2. キラキラ髪の毛

たまーに、髪の毛が超キラッキラしてる絵柄ってありますよね。
こういうの。

ちょっと慣れてきてデッサン狂いがだいぶなくなった、くらいの段階の子に、そういう作風に憧れる子が多いようです。
イラスト関係のコミュニティサイトなどを見ていると、描ける子に描けない子達が「教えろよ」って大量に詰め寄るシーンもごくまれに見かけたりします。

でもアマチュアでキラキラ髪が描ける人はだいたい絵はフィーリングで描くのが正義という人の方が圧倒的に多く、理屈を覚えて巧くなるタイプで初級・中級くらいの人はなかなか描けません。
だから、質問しても「キラキラしそうなところにハイライトを入れればキラキラするよ」という答えしか返ってこなかったりするんです。

もし理屈タイプの人がキラキラ髪を描こうとすると、以下のような知識が必要です。

1. 流体の立体感覚

キラキラ髪とは、髪の毛が実際光ってたらどう見えるかという状態をイラストで模倣したものです。
ですのでキャラクターの髪の毛に現実感がなければ描けません。
 
対して多くのアニメイラストの髪の毛は、ヘルメットのような髪の毛的なものを頭にかぶせてハイライトを模様として描き加える、という描き方をするため、ハイライトにソフトフィルターをかけるような単純な方法ではキラキラした感じにはなりません。
 
髪の毛に現実感を出すには、現実にありえそうな毛の流れやふわふわ感を描写できなくてはいけません。
 
そのためには、流動的に動く物体を立体的に捉えるスキルが必要です。
これは、通常の立体感覚よりも難しいスキルになります。

2. 頭部の解剖学知識

髪の毛を立体的に捉えるには、頭部において髪の毛が生えている方向・量・髪質などを知っている必要があります。
髪の生えている方向に矛盾があると、「偽物」っぽくなって輝いて見えません。

3. ヘアスタイルの知識

これは当たり前ですね。
現実にはありえないものは現実にはありえないのだから、現実にはありえないものを現実的に描くことはできないのです。
髪に現実感のある輝きを出すには、現実的にありえる髪型が描けないといけません。
また、光が当たったときの髪の毛の光り方も知っている必要があります。

4. フリップフロップ効果

これは必須ではありませんが、知っておいた方がよりいいかもしれません。
キラキラ髪は、通常多くの場合、現実よりもさらに美しく髪が輝いています。
そのような強いハイライトを持つ物体は、ハイライトの「きわ」の部分が本来とは異なる色に発光するという現象が起こります。
たとえば、真っ黒いはずの物体のハイライトのきわが紫に光ったり、金の延べ棒に不意に緑色の線があるように見えたり、といった感じです。
このような、ハイライトが本来ありえない発色をする現象をフリップフロップ効果といいます。
これが理解できた方が、より強い発色効果を再現できます。

5. 三点照明法

キラキラ髪を描くうえでもっとも重要なのがこの三点照明法です。
通常、多くの初心者はハイライトを「光源は1つ」というイメージで絵を描きます。
つまり一点照明法です。
 
ですが現実社会では、人間の髪がキラッキラに輝くのはアイドルがステージの上に立ったときなどであり、照明が一点しかない状況で髪が輝くことはほとんどありません。
 
三点照明法では、メイン光源のほかに背後に「バックライト」を想定して、メイン光源の反対側にもハイライトを付けてあげます。
さらに、「フィルライト」といって、影の色が濃くなりすぎるのを防ぐためにカメラのすぐ横あたりにもライトを設置しますので、「カメラと相対する箇所」にもハイライトがつくことになります。

6. 水面を煌めかせるハイライト

どうしても三点照明が難しければ、こちらでも大丈夫です。
たまに超リアルな水面が描ける人いますけど、あれが描ければ髪の毛もキラキラさせられます。
三点照明かどっちかで大丈夫です。
(両方使うとむしろ髪の輝きが白く飛ぶ)
 
こちらの方法の場合、コツはハードエッジの白で髪1本1本にハイライトを付ける感じになります。
(通常はカスタムブラシを使うべきかもしれません)

数えてみると意外と膨大で、ただ知っていればいいものから慣れが必要なものまで様々です。
ですから通常は、フィーリングタイプの人のように、とにかく大量の経験を積んでカンを培った方が圧倒的に早いのです。

3. アイドル

決して多くありませんが、少なくもない比率で初心者に描かれるのがアイドルのイラストです。
最近はラブライブを練習に使う人もけっこう多いようです。

まぁ、練習なんだから思った通りに描けばいいし、思った通りに描けなくてキレる人は比較的少ない題材ではありますが、これもリストアップしてみると結構な量のスキルが必要なことが分かります。

1. スマイル

とりわけ「いかにもアイドルっぽいスマイル」は、人によって得意・不得意が大きく分かれてしまう分野です。
最初に絵を描きはじめたときの動機が「かわいい女の子を描きたい」だった人は、比較的直感的に分かるはずです。
ですが「巧い絵が描きたい」だった人は、アイドルっぽいスマイルは逆に描けないと思います。
 
なぜなら、アイドルのスマイルは「お客さんのために一生懸命笑ってる」という状態であり、自然に笑みがこぼれている状態ではないからです。
どちらかといえば「内面感情の表現」ができないと難しい分野です。
 
最初からかわいい女の子を集中的に練習していた人は、「マンガ表現的なスマイル」の練習をしているので、その延長で描けるわけです。

2. ポージング

個人的にハマったのでリストアップしましたが、ポージングもやっぱり1つの「スキル」です。
まずポージングスキルは、とにかく「解剖学」がちゃんと修了していないと習得できません。
解剖学の分野を何となくでいい加減に覚えている人は、「お人形さんがポーズを取っている」ような絵を描いてしまいがちなため、リアルなアイドルのイラストにならないんです。
 
ただし、「ライブ」「ダンス」「スポーツ」「格闘技」など、体を使う趣味を持っている人は、解剖学が分からなくても、自分が得意とする分野のポーズなら何となくで描けるはずです。

3. ファッションデザイン

もちろんラブライブのキャラを模写するのにデザインスキルは必要ありませんが、オリジナルのアイドルを考えるなら必要です。

4. 服のしわ

しわが描けなくて悩んでいる人は世の中に多いのですが、実をいうとこの「しわ」は別に必須ではありません。
服のしわって、実は何も描かなくても意外と違和感はないのです。(まぁ、着せる服にもよりますが)
もちろんリアルに描きたいなら必要ですけど、適度に省略することも必要です。
 
ただし、世の中のしわで悩んでる人の多くは、その原因が「立体感覚が十分育っていない」という理由のことがほとんどです。
服のしわを立体的に捉えていないため、どこにどんなしわを入れればリアルになるか分からないケースが圧倒的に多いんです。
 
その場合、時期が来れば自然に描けるようになる人も多いので、別に焦らなくてもいいのではと思います。
(しわ専門の教則本なんてので勉強してもいいんですけどね)

5. 背景

アイドルというのは芸能界という「世界」を含めてアイドルなので、アイドルがポーズを取ってるだけの立ち絵では意外とリアルになりません。
これも別に好きにすりゃいい範囲のことではありますが、背景をきっちり描けた方が有利なのは間違いないでしょう。

4. 戦う女の子

簡単な方から順に説明してきて、今回挙げた中では最難関となります。
女の子が戦っているシーンの描写。

これを「描き方教えて」とか言ってくる人は少ないんですけどね。難しいことが直観的に分かるので。
どちらかといえば、無謀にチャレンジして「なんで描けないんだろう」って悩んでる人の方が多いです。

1. ポージング

アイドルの項でも登場したポージングですが、戦う女の子を描く場合の方がよりシビアです。
アイドルイラストには「猿手」や「極端な胴体のひねり」などのだまし技が使えますが、戦う女の子にそういうテクは使えないからです。
格闘家や戦士は、肉体をリアルに描かないとカッコいい感じになりません。
別に、かわいい声で「やぁぁ☆ とぉぉ~」って言ってるようなゆる~い感じでよければいくらでも妄想丸出しにしてもらえばよく、それはそれで個人的にはアリだと思います。
 
が、「リアルに戦ってる感じ」にはなりません。
本格的に描くならガチの戦闘知識も必要だし、解剖学の習得が完全でない場合もマイナス要因になります。
 
加えて、「戦士」としてだけでなく「女の子」としての魅力も同時に描く必要があるので、筋肉の「かさ」をごまかす必要もあります。(とりわけ昔ながらの中世ヨーロッパ時代ベースのファンタジーな世界観の場合)
あまり筋肉ムキムキでは女の子っぽくなくなってしまうので、「どこまで嘘をつくか」というサジ加減が重要です。

2. 鎧のデザイン

ファンタジーを描く人が意外と困りがちなのが、この「鎧」について。
アニメの鎧は、割とマジの戦闘シーンがあるようなアクションものでも、工数削減のために関節部のブーツ処理が省略されているものが多く、本格的に描こうとするとつまづくことが多いです。
(ブーツ処理というのは、その鎧を実際に作って実際に着ても関節部がちゃんと稼働するよう、鎖帷子などを設置することです)
 
このブーツ処理ってヤツはプロにとって悩みの種で、それゆえに「本格的なバトルものほど、ブーツ処理のそもそもいらない、あちこち大きく開いた鎧デザインになり、あまりバトルを重視しないアニメの方が、むしろ史実に忠実なデザインになる」という矛盾も発生します。
現実の重武装鎧は下着として鎖帷子を着るのが常識だったので、これを週1放送のアニメで描こうとするとメチャクチャ大変なのです。
ですから、本格的な中世イラストを描くんだったら、アニメの模写をする場合でも、鎧のデザインは自分でやんなきゃということがたまにあります。

3. シチュエーション描写

これは当然です。
「戦い」というのはそれ自体が「状況」ですので、シチュエーションを設計する知識は必須です。
具体的には、描くシーンの前後だけでも「シナリオ」を設計できないといけません。
 
まぁ、これも「あとで後悔するのは自分」ということを忘れなければ、適当でもかまわないのですが。

4. 対戦相手とのからみ

あとこれもそうですね。
相手がいないのに戦ってたら、それは戦士じゃなくてただの変な子ですし。(そりゃあ、俺としてはガチに怖い子よりちょっと変な子の方が好きだけどサ)
別に対戦相手がいなくてもペラのイラスト1枚くらいなら描けますが、バリエーションはやっぱり出ません。
戦闘シーンを数描いていくには、「敵とのからみ」が描けることが必須になっていきます。
 
「からみ」は、立ち絵が描けるようになったばかりの人には意外と難しいのです。

5. 魚眼グリッド

それと意外に大事なのがこれ。
背景を描くとき、正しくパースをとるためのガイドとして「グリッド」と呼ばれる格子を切る人も多いのですが、この格子にあらかじめ魚眼処置を入れておくのです。
なぜなら、「現実の喧嘩」とか「現実の戦闘」ってのは本質的に、文字通り「泥臭い」ものであり、決してカッコよくはないからです。
 
戦う姿をカッコよくダイナミックに描くテクニックとして、魚眼グリッドはある意味必須ともいえるかもしれません。
まぁ、最悪なくても描けますけど、ある意味では、ってこと。
魚眼グリッドを背景に使うと、シーンのスピード感が全然違ってきます。


ここまで言って、それでもやりたいと言う人がいたらその人はガチなので、先輩としてスパルタ教育でもしてあげればいいと思います。

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