絵師のロジカルタイプとフィーリングタイプ

長く絵師をやってれば直感的にお分かりいただけるかと思いますが、絵師にはロジカルに描くタイプとフィーリングで描くタイプがいます。

ロジカルタイプというのは、いわゆる理屈を覚えて巧くなるタイプ。
「美しい曲線とは、アールの角度が何度前後くらいで、ストリームとエッジの転換がこれくらいの頻度で起こり~」みたいなことを具体的な数値で割り出したがる人です。
要するに理系の絵師。

逆にフィーリングタイプは「自分が美しいと思うかどうか」、という感覚だけで何でも描いてしまうタイプです。
とにかく何度も曲線を引いて、経験とカンで一番美しい曲線を割り出す、みたいな描き方をする人のことをいい、つまりは文系の絵師ですね。
今までマジカクのコラムを連載していて感じていたのは、「どっちの人向きにコラムを書くか」で内容が変わるということでした。

たとえば、「パース」というものを本人が「空間の描画法」と捉えているか「数学概念」と捉えているかによって、説明は180度全く異なってしまいます。
互いに互いを全く相いれないと言っても過言ではありません。

フィーリングタイプの人が後輩に教えるときは、「パースはまず1点透過から」とよく言います。
ですがロジカルタイプの人は「絵を描くのに消失点が1つしかない」という状況がそもそも理解できません。
消失点は必ず3つであり、1点透過の場合は縦横の消失点位置を無限遠に取る」と教えないといけないんです。
そうでないと最初の縦線か横線を引こうとした瞬間に固まってしまいます。

なぜなら、この世は三次元空間だから、目に見えるものは全て高さ・幅・奥行きの3要素があるはずだからです。
消失点が1つしかない」ということは「奥行きしかない」ということになり、高さも幅もなく奥行きしかない物体など描きようがない、という理屈になるからです。

ですがフィーリングタイプの人にこんな説明をしても、「周りくどすぎていっそのことバカか」と言われてしまいます。

初心者のうちは、自分がどっちのタイプなのか、といったことのほか、「美術部の先輩がどっちのタイプか」ということも重要な問題になりがちです。
特に「フィーリングタイプの先輩とロジカルタイプの後輩」の組み合わせは最悪です。
フィーリングタイプの初心者の中には、ごく一部ながらロジカルタイプの初心者を見下す人がいるため、自分には簡単なことがなぜ後輩には難しいのか理解できずに罵倒する、なんて光景は割とよくあるものです。

また、一般に若いうちから「素質がある」と言われがちなのも、フィーリングタイプの人です。
フィーリングで何でもそこそこ描けてしまうからです。
初心者レベルの練習を一足飛びにパスして、あっという間に中級者になってしまいます。
ですが美術は高度になればなるほど知識と理論の世界になっていくので、中級から上級に移るあたりで盛大につまづくのもフィーリングタイプの特徴です。

逆にロジカルタイプの人は初級レベルの練習でつまづきます。
「美しい線が美しい」ことに理由などありませんが、ロジカルタイプの人は基本的に「存在はするのにその理由がない」ことを理解できないからです。
ですが、何とかがんばって初級レベルをクリアできれば、レベルが上がれば上がるほどブーストがかかりやすくなるのもロジカルタイプの特徴でもあります。

まぁ、そうはいっても、そこをさらに超えてプロ級になっていくなら話は別で、ロジカルとかフィーリングとか、正直どうでもよくなるのですけどね。
なぜならプロの領域では、「絵を見る人の心を分析する」という考え方が必要になってくるので、どちらかに凝り固まった頭ではどっちにしろついていけないからです。

ようするに美術はフィーリングで覚えなしゃあないもんはフィーリングで覚えないかんし、理屈で覚えるしかないものは理屈を理解するしかありません。
その意味では「中間タイプ」の人が、実は一番強いのかもしれません。

・タイプは1人1つじゃない

とはいえ初心者のうちは、自分がどっちのタイプかを理解して、自分に合った情報を見つけていくしかありません。
自分のタイプと合わない情報を噛み砕くだけの経験がまだないからです。
教則本を買っても、それが「自分に合うかどうか」は読んでみないと分かりません。
ですから、いろんな情報をとにかく幅広く集めて、大量に集めた情報の中から自分に合ったものを探すことになります。

そんなときに注意しなきゃいけないのは、自分が「ロジカルタイプ」か「フィーリングタイプ」かということが分かったとしても、そのタイプに固執してはいけないということです。

たとえば俺ですが、俺は割と極端なロジカルタイプの絵師です。
ホーガスラインのアール率は数値で知っておきたいし、色彩理論は専門用語も交えて正しく使いたい。物質の光沢感は光学的に正しく描きたいし、建築物の構造は建築学に基づいて覚えたいです。パースは全部理論ではじき出します。
俺は普通の人が普通に理解できることが理解できないことも多いので、全部理屈で覚えるしかなかったのです。
一般に多くの人がフィーリングで覚える「視線誘導」とか「ポージング」といった分野のことすら、理屈がないと理解できませんでした。

ですが、俺みたいにこんなにも極端に何でもかんでも「ロジカルに」という人は珍しいでしょう。
通常は、「デッサンはフィーリングでなんとなくマスターしたけどパースはロジック型だった」とか、「機械を描くときはロジカルシンキングするけど、人の表情はフィーリングで」といった感じで、ジャンルによってタイプが入り交じっているはずです。
とりわけ「ポージング」を理屈で覚える人は珍しいのではと思います。

もちろん、こんな俺でもフィーリングで覚えているジャンルがいくつかあって、「解剖学」は感覚的に覚えました。
人間の筋肉は「機能美」で出来ており、そこに理屈はないと感じるのです。
何でもかんでも理屈を覚えないと気が済まない自分が、なんでここだけそう感じるのかはよく分かりません。
なんかよく分かんないけど、そういうものだと思うと筋肉の配置が自然と頭に入ってくるんです。

それと俺は人間の「表情」もほぼすべて計算づくで表情筋のシミュレーションから入りますが、唯一「アイドルスマイル」だけはフィーリングで何となく描きます。
その方がかわいく描けるからです。

なのであなたも、教則本の内容や先生・先輩の言葉が理解できないとき、見方を変えてみるといいかもしれません。
心で感じられないときは理屈を調べる。
科学的な理由が理解できないときは、純粋に好きか嫌いかで判断してみる、とかです。

そうすることで、今まで理解できなかったことも、意外と分かるようになるかもしれません。

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