鉛筆を手に取るよりも手前の段階での作業

絵を描こうと思い立ち、ノートを開き、ペンケースから鉛筆を手に取ってから、ふと手が止まることがあります。
鉛筆を手に取ったからには何か描きたいイメージが必ずあるはずで、ネタすらないのに鉛筆を握るわけが絶対にないんですけど、それでも描けないことがあるんです。

そんなとき頭の中はどなってるんかっちゅーと、ようするに「イメージが構図になってない」のですね。
絵が描きたいと思っているのに、頭の中のイメージが絵じゃないんです。
だから描けないんです。

ラクガキをしようと思い立った瞬間に思いついたアイデアを、ファーストイメージ(または人によってフラッシュイメージ、インプレッション、もしくは単に「来た」「天使」などとも)と呼びますが、これは通常、すぐに描きはじめられるほどには明確でない場合が多いです。
はっきり決まってるのは「主人公の顔だけ」とか「景色の一部だけ」とか、ひどいときには「雰囲気だけ」「気持ちだけ」なんてこともあります。
とりわけ文章系の趣味から転向してきた絵師なんかだと、ファーストイメージが小説の体裁をとっていることも多いです。

ですから、そんなもんをいきなり絵にしようって方がそもそも間違いなわけです。
というわけで今回は、ファーストイメージを構図設計に落とすまでに、どういう順序で何を発想すればいいのか、という話。

1. プレミスに落とす

まずファーストイメージが浮かんだら真っ先にやるべきなのは、それをプレミスに落としこむ作業です。
プレミスとは前提という意味の英単語で、ようするに「自分は何がしたいの?」ということです。

通常、プレミスは「5W1H」からなる1文です。
たとえば、「妖精の女の子が明るい草原を散歩している」「暮れなずむ未来の空港から、SFチックな戦闘機が発進しようとしている」などです。
2文はいりません。必ず1文です。

もしプレミスが2文以上になってしまう場合、それはファーストイメージの段階ですでに余計な肉が付きすぎているためです。
つまり一番描きたいものは何なのか、優先順位がはっきりしていないので、その場合は1文になるまでそぎ落とすことが重要です。
(ただし余計な肉もちゃんとあとで使います。決して捨てないでください)

また、ファーストイメージが、プレミスに落とせないほど曖昧なこともあります。
イメージそこそこしっかりしていれば文章は自然に浮かぶはずですが、それすら浮かばないという場合です。
そういうときは、自分のネタ帳をひっくり返すとか、でなければネタサイトで検索するとかして、自分が何を描きたいと思っているのかをとにかく特定します。

プレミスが決まらないことには、以降の作業はどうしようもありません。
自分でも何がしたいのかよく分からないまま作品作りをしたところで、出来上がる作品は絶対によく分からないものにしかなりません。
だがそこがいいという人は好きにすればいいですケドモ。

2. コンセプトイメージをまとめる

プレミスさえ決まってしまえば、初心者とかは割と勢いだけで絵が描けてしまうことも多いです。
ですが中・上級者になってくると、だんだん描いてる途中で「ふと手が止まる」ことが頻繁に起こるようになります。
なぜなら、中級以上の人は初心者よりも失敗した経験が多く、「ホントにこれでいいのかな?」と立ち止まってしまうからです。

プレミスはあくまで「自分が何をしたいのか」であり、つまり個人的で自分勝手な妄想です。
だから「自分勝手な妄想じゃダメだ」と分かっている人ほど手が止まるんです。

そんなときは、プレミスを他人が見ても分かるように表現するには、という設計に置き換える必要になります。
それをコンセプトイメージといいます。

プロなんかは、パッと見で「たしかにこれならヒットするわ」と思えるようなかなり万全なコンセプトを作成します。
そうしないと企画会議に通らないからです。(当たり前)
アマチュアの場合、企画会議は脳内で個人的にやっていただければいいですが、少なくとも途中で手が止まらない程度の計画性が必要です。
ご利用的は計画的にです。

コンセプトイメージは通常、以下のような情報の集まりです。

1. プレミス

→ そもそも何がやりたいのか

2. 全体的な作風

→ ジャンル設定

→ 雰囲気・タッチ(ライトとかダークとか。色彩設計を含むことも)

→ 誰向きの作品を作るのか(友達? Twitterのフォロワーさん? pixivの目の肥えた人? コミケのお客さん?)

3. アウトライン(ストーリーイラストの場合)

→ ストーリーの教訓

→ 世界観

→ 人物設計・バックストーリーなどなど

→ プレミスからそぎ落とした肉

これくらいあればだいたい大丈夫です。

通常、多くの人が行き詰まりやすいのは「3.」のアウトラインの部分だと思います。
ですが最初のうちはそんなに深く考えなくても、1~2行くらいの状況説明文があれば十分です。
初心者のうちはあまり無理に深掘りをせず、さくっと構図設計に入った方がいいです。
できないものを無理してやっても、考えすぎて描けなくなるだけで意味がありません。

ですが経験を積めば積むほど、そこそこ設定が深くないと完成品が安っぽくなることに徐々に気づくきます。
最終的には、イラスト1枚描くにも、短編マンガ1本分くらいの設定が欲しいなと思うようになると思います。
それから「教訓」の部分についても、ストーリーテリングの基本としては本来必要ないものなのですが、世の中にはストーリーに教訓がないと「何が言いたいのかよく分からない」と感じる人も多いので、読者に対する親切心ということで一応入れておいた方がいいです。

で、設定をざっくり決めて、それをさらに深掘りしていくわけです。
深掘りのやり方は人それぞれですが、個人的にいい感じと思った方法を紹介します。

ちなみに当サイトの他のコラムでは、コンセプトイメージのことを「テーマ」と呼んでいます。
ですがテーマという言葉は、ケースバイケースで「プレミス」単体を意味したり、「コンセプトイメージ全体」を指したり、または「ストーリーの教訓」の部分のことだったりと意味が割と安定しない言葉です。人によっては「先生から与えられた課題」とか「モチーフ」という意味だったりもします。
なので最近は自分ではあまり使わないようにしています。
他のコラムを後で読むと混乱するかもしれませんが、そのときはすいません。。。

3. 設定の深掘りをする

・1人連想ゲーム法

まずは、モチーフ素材となるアイデアを、全く何もないところから捻出します。
モチーフはキャラクターデザインや世界観設計など、様々なアイデアの素にするものですから、前項で作ったアウトラインの規模が大きければ大きいほどそれなりに数が必要になります。
なのでいくつか考案しておくに越したことはありません。

ゼロからアイデアを生み出す方法としてはブレインストーミングが有名ですが、もしあなたがボッチであればこの方法は使えません。
ブレインストーミングはあくまで大人数で行うことを前提とした方法論ですし、紙や場所を大量に必要とします。

そんなときは、効率は少し悪くなりますが「1人連想ゲーム」が使えます。
やり方は簡単で、コンセプトイメージに登場する言葉の中から適当に1つ選び、そこから連想される言葉を次々に思い浮かべていって、気に入ったキーワードが登場するまでそれを続けるだけです。
通常、50回ほど連想すれば、全然関係ない全く新しい単語になります。

その際、紙にメモするのは気に入ったキーワードだけで構いません。
あまり手ばかり動かしていると、そのことに気力を取られて発想力を十分に発揮できないからです。
(手を動かしながらの方が頭がすっきりする人は、書きながらの方がいいです)

この方法であればボッチでも大丈夫です! よかったですね!
トイレでご飯を食べながらでもできますよ!
まぁ、少し臭いけど。

・キャラクターインタビュー法

モチーフが決まったら、それを使ってストーリーアウトラインを広げます。

ただしスチルイラストの場合はそんなに凝ったものでなくても、「女の子が日課の散歩をしている話」みたいなシンプルなアウトラインで十分です。
起承転結やオチも、必ずしもいりません。
ですが、少なくともイラストに登場する世界・人物・前後の出来事については、マンガと同じような設定が必要になります。
(イメージが膨らまないと感じた場合は、クライマックスシーンのあるちゃんとした起承転結を作った方が楽な場合もあります)

その際によく利用とされるのが「この子はどういう子だろうと想像する」という方法です。
生まれは? 好きな食べ物は? 出身地は? 両親の仕事は? など、主人公にどのような設定をかぶせるのかを質問形式で作っていくのです。

この方法はキャラクターインタビュー法といって、その主人公がどういう人物なのかを、実際に本人に直接聞いてしまうやり方です。
あまり脳みそに負担をかけずに、自然に湧き出るアイデアがそのまま使えるメリットがあります。

・もしもクエスチョン法

キャラクターインタビュー法は直感的に分かりやすい方法ですが、質問をあらかじめ決めておかなければならず、しかも場合によっては、キャラクターがインタビューに答えてくれる程度には勝手に動いてくれる必要があります。
ですから、「キャラが頭の中で勝手に動く」という感覚がない人にはできないことがあります。
できあがる設定も、「どこかで聞いたことのある」ものになりがちで、なので主人公格のキャラクターを完全ド新規で起こす場合はやや面倒です。

そういう場合は、「もしもクエスチョン法」という方法が使えます。
設定が完成するまでのスピードでは劣るものの、こちらの方がどちらかというと汎用的で応用範囲は広くなります。

やり方はまず、よくあるテンプレでいいので、とにかく人物を作ります。
その際、キャラクターは必ずしも勝手に動いてくれる状態でなくてもかまいません。

あるていどまで作ったキャラクターに、「もしこのキャラが女(男)だったら?」「職業が会計士でなく殺し屋だったら?」「実は神の末裔だったら?」「実はすでに死んでいる?」「胸に七つの傷がなかったら?」などなど、作った設定をどんどんひっくり返していくんです。
質問は場当たり的にその場で用意すればいいので、あらかじめ考えておく必要はありません。
色んなパターンを考えて、最終的に気に入ったアイデアだけを使えばいいのです。

そしてそこそこキャラが固まったら、改めてインタビュー法でさらに膨らませることもできます。
インタビュー法で膨らませた設定を、再度もしもクエスチョン法で膨らませてもいいのです。

4. 構図におこす

様々な設定を作ったら、それをいよいよ構図に起こします。
その際に注意することは、
・優先度の高いものがより目立つ設計になっているか
・「せっかく作ったから」といって全部のアイデアを無理やり詰め込もうとしていないか

の2つくらいです。
美術とは、本来自由の類似語であり、作者は思いの赴くままに構図設計していいのです。

ですが、あまりに自由すぎて手が止まるようであれば、そのときはサムネイルを作った方がいいでしょう。
構図設計っつってもいろんなパターンがあり、設定があれば必然的に決まるというものでもないからです。
サムネイルは「親指の爪」という意味の言葉ですが、ようするに「小さなイラスト」ということです。

3センチ×2センチとか、まぁ大きさは適当でいいんですけど、描きやすいサイズの小さな枠に試しに構図設計してみるんです。
この方法であれば、いくつものバージョンを簡単にポイポイっと作ることもできます。

プロ絵師の中には「ラフ50枚とか無茶ブリだろ!」とクライアントに怒る人がいますが、そういうときはサムネイルでいいんです。
「とりあえず試しに」描くのなら本格的なものなんかいりません。
ネタどっさり持ち込んでも、New Type Version の打ち込みに放課後まで待たなくていいんです。
1万年と2千年後まで愛してる必要もありません。5秒で大丈夫です。

イメージをまとめたいときや、たくさんのアイデアを並べて比較検討したいときは、とにかくサムネイルです!
1にサムネイル、2にサムネイル。3、4がなくて5にサムネイル!
(3と4はないです。あってもいいけどどうせサムネイルです)

またサムネイルは、ポーズがうまく決まらないというときにも使えます。
少しずつ動くパラパラマンガ風のサムネイルをいくつも描いて、一番かっこいいと思うコマを採用すればいいからです。


「できない、できない」と1人で勝手に悩む人の多くは、描く手前で「考える作業」が必要なのだということを軽視しがちな傾向があります。

ですが、答えというのは考えなければ浮かばないものなのです。
それは数学の問題を解くのに数式が必要なのと同じ理屈で、数式は覚えてないけど計算はしたいとか、そんなの絶対無理です。
構図が浮かばないなら、浮かぶような設計方法を頭に入れるしかありません。

そういうのって、最終的には自分なりの方法を見つけていく必要がありますが、当コラムの内容がその役に少しでも立てればと思います。

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