シナリオ構築の基礎

日本では、マンガ家志望者の9割以上はシナリオでつまづくそうです。

これは俺自身の個人的な経験論ではなく、漫画雑誌のプロ編集者が著書の中で言っていたことです。(八窪頼明著「おもしろさの創り方」)
その方は小学館の編集者を長くやっていた人らしいのですが、9割以上の人は、シナリオの練習をしないで描いた漫画を持ち込みしてくるそうです。

事実、ヤフー知恵袋で長年回答者をやっていても、絵師を目指す人がシナリオに関する質問をしているところは、記憶にあるかぎり2~3回くらいしか見たことがありません。
絵師の全てがマンガ家を目指しているわけではないことも考えると、基本的に絵師という人種はシナリオのことなど考えたこともない人ばかりということになります。

ですがこれって実はとっても不思議なことで、俺としては「シナリオの基礎も知らないで、どうやってストーリーイラストを描くの?」というのがすげー疑問なんですよね。
プロの挿絵画家と違って、同人のストーリーイラストは元になるシナリオから自分で作らなければいけません。
なのに、それがないのにどうやって絵を描くつもりなのかな、と。
(まぁ、俺はもともとシナリオ兼プログラマーという方向性でずっとやってて、あとから絵師に転向した手合いなので、余計にそう思うのかもしれませんが)

プロのマンガ家でも、「キャラのかわいさ」ばかりを前面にプッシュしすぎてストーリーが面白くなく、結果ヒットを飛ばせずに消えてしまう人は大勢います。
マンガは「物語を絵で説明した本」なのですから、そもそもの問題としてシナリオが書けない人がなれる職業ではありません
もちろんこれはスチルの絵師でも同じで、シナリオを理解できない人がシナリオに即した絵を描く、こともやっぱりできないのです。

てなわけで今回はシナリオの基礎の話です。

1. テーマをシナリオ向けに用意する

絵師たるもの、何か描く以上はテーマはすでに用意してあるはずですが、マンガやストーリーイラストを描く場合、立ち絵と比べてより詳細なテーマ設計が求められます。
テーマの上に乗っかってる「設定」の深掘りが必要というか。

設定をどれくらい掘ればいいかは、一般には描こうとするページ数に比例する傾向がありますが、作風によっては必ずしもそうではなく、スチル1枚を描く場合でも長編マンガ1本分の設定が必要という人はいます。
まぁ、ページ数少ないのにそう深く掘ってもしょうがないのも事実ですが、だからといってスチル1枚こっきりだから全然設定など必要ないということでもありません。

最低でも、以下のような設定をあらかじめ用意しておきたいところです。

1. テーマ(言いたいこと)

何が言いたくて物語を書くのかということです。
一般には、最終的な物語の結論が何か「教訓」めいたものなのか(教訓系シナリオ)、それとも教訓はさほどなくて「突拍子もないオチ」で推すのか(オチ系シナリオ)の2系統があります。
 
何か世間(や身近な人)に言いたいことがある人は、それをそのまま教訓系シナリオに仕立てればいいでしょう。
最初からシナリオ志望の人は基礎練習にはこちらの系統がおすすめで、オチ系はややハードルが高くなります。
ただし本人の考え方によっては、オチ系シナリオの方が簡単という人はいるかもしれません。
そこは自身の適性を見極めて決めましょう。
 
なお、「言いたいことがないなら日常系のダラダラしたシナリオにすればいい」と思う人もいるかもしれませんが、これはダメです。
簡単に書けるので初心者が飛びつきがちな手法なんですけど、知り合いでも「同人時代にダラダラ系シナリオに慣れすぎて普通のシナリオが書けず、結局デビューできなかった」という人は物凄く多いです。
(プロのマンガ家でもそういう話の作り方をする人はいますが、マンガとしてすごくつまらないか、仮にそれで一発当てても二作目が出ないか、二作目がダメダメグダグダという人の方が圧倒的に多いです。
本来、日常系というのはサスペンスアクションの一形態であり、エピソードの種類が「ごく日常的にありえ、平和裏に解決する」ものに限定された物語のことをいい、主人公の生活をダラダラ描いたフィクション日記のことではありません)

2. ジャンル

物語のジャンル(SFとか、ミステリーとか、アクションとか)は、テーマから決めます。
場合によってはジャンルを先に決めた方が楽なときもありますが、テーマが先の方がキレイにまとまりやすく、おすすめです。

3. クライマックス

クライマックスシーンとは、物語が最終的に言いたいことを数コマ(または数秒間)に収めたシーン、およびそのコマに直接つながる小節の総称です。
この工程では、教訓系の場合は「主人公にどんな葛藤シーンを演じさせるか」を、オチ系の場合は「オチをいかにドラマチックに暴露するか」を考えます。
 
シナリオ構築で一番の悩みどころで、そのシナリオがウケるもスカるもここで決まります。
ですので、テーマを決めたらすぐにクライマックスを作ってしまうのが、最終的には一番楽なのです。

4. 主人公設定

シナリオに慣れてない人は意外に思うかもしれませんが、そもそも主人公はクライマックスシーン設定から逆算して決めるものです。
あなたがすでにマンガ界の重鎮で、「自分が描けば売れる」状態になっているならいいですが、そうでなければクライマックスよりも先に主人公を作ってはいけません。
 
主人公を先に決めてから、その主人公に基づいてクライマックスを決めることももちろん可能ですが、それだと実際にクライマックスになったところで予定が狂います。
ほぼ100%おかしくなります。
 
シナリオ執筆では、「しっかりと動いてくれる描きやすい主人公」ほど、作者の意志を無視して主人公がどんどん自分から行動していってしまう傾向があるため、主人公の行動がたまたま最高のクライマックスを創り出してくれればいいですが、通常多くの場合はスカります。

5. 起こるエピソードとその他の登場人物

ストーリーは、いきなりクライマックスから始まっても、読者には訳が分かりません。
クライマックスシーンは「盛り上げる」ものであり、ただ「描く」だけではダメです。
 
ですので、クライマックスが盛り上がるようなエピソードをいくつも考えます。
マンガの場合はこのエピソードの数でページ数が決まります。
だいたいどれくらいのボリューム感で描くかも考慮しながら、クライマックスが最高に盛り上がるためにはどのような伏線があればいいのかを列挙していくわけです。
 
アクションものなどはクライマックスに入って以降のシーンにページが食われるため、それも考慮しながら数を決めます。
どちらかといえば、最初からシーン数を決めてその数だけアイデアを出すよりも、20個とか30個とかとにかく大量に考えてから最後にシーン数を決めて、「出たアイデアの中でテーマ的に適切なのはどれか」を選ぶ方が簡単です。
 
なお、スチルイラストの場合はエピソードの数は必ず1つと決まっており、間違っても複数用意してはいけません。
ですので考えるときは、大量に作ってからその中でもっともキラキラして見えるエピソードを1つだけ選びます。
スチルイラストはコマが1つしかないので、事件を複数設定しても絶対に描ききれませんし、無理に描いても見てくれる人に伝わりません。
(ただしどうしてもという場合には、最低限コマ割りをするか、またはコマ割りの代わりになるような構図設計をする手はあります)
 
また、主人公を取り巻く登場人物とか、細かい世界観なんてのもこの段階で設定します。

6. オープニングとエンディングを決める

1. ~ 5. が全てキレイに整っていれば、オープニングを考えるのは難しくないはずです。
「主人公格の登場人物紹介をきっちり終わらせること」「最初のエピソードとのつながりに不自然さがないこと」などの条件を満たしつつ、遅くとも4ページ目までに読者のハートをつかむことを意識して始まり方を決めます。
 
また終わらせ方も同様で、なるだけきれいにサラッと終わらせるようにしましょう。
エンディングシーンは「言いたいことを全て言い終わった後の物語」であるため、ダラダラと長く続けるものではありません。
「いい余韻」を残すにはどうすればいいか、ということだけ考えていればだいたい巧くいきます。
(もちろんですが、スチルイラストの場合はこの部分の作業は必要ありません)

 

2. シノプシスとネーム

上記のシナリオ構築では、ストーリーを後ろから追いかけてしまっているため、当然前から順に並べ直す必要があります。
で、このストーリー全体を前から後ろまできれいに列挙したもののことをシノプシスといいます。
略して「シノプ」といったりします。

スチルの場合、最低でもここまで決まっていれば、割と簡単に構図設計に入れるはずです。
あとはいつもどおり、構図・カラー・ポージング・アクセントなどを決定してラフ描きに入っていくだけです。

マンガの場合は、このシノプにさらに「画面演出」の設計を加えたものを描きます。
それがいわゆる「ネーム」です。

自分が考えた話が面白いかどうかを人に判定してもらう場合には、この「シノプ」や「ネーム」を見せた方がいいです。
最後まで完成させてから人に見せると、「そんなこと言われても、今からそれ修正できねぇよ」なんて指摘が来てしまいますし、ネームの方が指摘する方も気兼ねなくいろんな意見を言うことができます。

ただし編集部に持ち込む場合は、ネームではなく完成品を持っていくのがマナーです。
これは、お話の面白さだけでなく、絵の上手下手も見てもらう必要があるからです。
とはいえ優秀な編集さんであればネームから絵の上手下手をかぎ分けることもできる人もいますので、どうしてもネームの段階で見てもらいたい場合、あらかじめネームでもよいか電話で聞いておくのも手です。

3. 連載展開

長い連載用にストーリーを展開する場合でも、基本は一緒です。
まず、連載開始から終了までの大まかな流れを「テーマ」「ジャンル」「クライマックス」「登場人物」「エピソード」「第1話と最終話」という具合にざっくり決めます。

その際、たとえばテーマが「政治の難しさ」であれば、「読者に政治の難しさを分かってもらう」ために、前提となる知識を習得してもらわなければいけないはずです。
そういった要素を「エピソード」の項でいくつも列挙しておき、その1つ1つをテーマにして、各話ごとの「クライマックス」「登場人物」「エピソード」「オープニングとエンディング」を決定するわけです。


中には、「俺はマンガ家にはなりたいけど、キャラのかわいさ/カッコよさをウリにしていくんだからシナリオは必要ない」と思う人もいるかもしれません。

ですが残念ながら、プロの世界ではそんな人は必要とされません。
「同人作家としてご自由に」と思われて終わるだけです。

マンガを手に取ってお金を払う人はシナリオの面白さに1番期待を寄せているのです。
もちろん絵は美麗であるに越したことはありませんが、あくまで2番目の期待要素でしかありません。
(さすがに3番目ではなくても、少なくとも1番ではありません)

そのことを肝に銘じ、マンガを描くならシナリオは常識、と心がけることです。

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