絵師必修の言語「シェイプ語」とは

絵師として初心者の域を脱すると、描きたいものを好きに描くこと以外にも「人に絵を見せる」ことにも意識が向いてきます。
今までは誰にも絵を見せないか、どちらかというと上手に描けてるかどうかの確認のために人に見せていたものが、だんだん「いいね!」という言葉をいかに巧く引き出すか、というところに視点が向いてきます。

そうすると、「何を描くか」ということ以外にも、「どう描くか」ということも気になってくるものです。

俺がそういう視点で絵を描きはじめたときには、どうやってスキルを磨けばいいのか分からず途方に暮れたものでした。
気に入った絵師のイラスト集をやたら買ってみたり、初心者向けの入門書を乱読したり、または古典絵画に手を出してみたり、伊藤若冲の分析なんて珍妙なことをやってみたり、果ては「建物を描くのに建築の勉強をする」という遠回りなことをあえてやってみたりしたものです。

この「どう描くか」の部分については、一般的な訓練方法が世の中に出回っていないこともあり、教えてくれる人がいないと感覚を理解できないことも多いです。
中には、「そこはセンスの問題だから鍛えようがない」とかアホなこと言って、せっかく何年も時間をかけて練習した絵師の道をあきらめてしまう人もいます。

まぁ、実際のところ、今に至るも効率のいい勉強法なんて見つかっていないのですケド……。
とはいえ、「初心者を脱したすぐの段階で知りたかったなぁ」と今でも思う言葉があって、それが「シェイプ語」という言葉です。

1. 世界の共通語「シェイプ語」

シェイプ語とは、分かりやすくいうと「絵に織り込むメッセージ」のことです。

俺が中学生くらいの頃、「絵にはメッセージがないといけない」と言われたときは、「絵は、地球人類に対して何か提言するような、壮大なものでなければいけないという意味だ」と勘違いしていました。
若かったもので、「メッセージ」という言葉自体をそういう意味だと勘違いしていたのです。

そこまでおバカな勘違いをする人はさすがに俺だけかもですが、絵にメッセージを織り込むというのはそういうことじゃなくて、ようするに「ツイッターのつぶやきに意味のない文章を書く人はいない」ということです。
ツイッターの短文には「眠みぃ。。。」とか書き込む人も中にはいて、そういうのを日本語では「無意味な書き込み」と表現はしますが、実際意味がないということはありません。
「眠い」という単語自体には意味があり、ツイート自体にも「自分が今眠いということを分かってほしい」という意図があるからです。

絵の場合も同じで、絵を「描く」からには誰かにその絵を見せたいという気持ちがあるはずです。
その誰かというのが自分自身であれば、多少意味不明でもいいかもしれませんが、少なくとも「あとで見たとき意味が分かる」ものでなければいけません。
人に見せるのならなおさらで、その人が見て分かるものでなければいけないのです。

そのような、あなたが分かってほしいと思っている「意図」を、言葉を使わない言語ととらえた言い方が「シェイプ語」です。
要は「キャラはシルエットで語れ」ってヤツですね。

ピクトグラム外国人向けの観光案内イラストなんかも、絵をシェイプ語として活用しようとする例です。
マンガの入門書なんかに「セリフを短くし、説明はできるだけ絵でやりなさい」と書かれているのも、「日本語ではなくシェイプ語で語りなさい」という意味です。

シェイプ語は世界共通で誰にでも通じる言葉で、普通の音声言語に比べ外国の人とも会話できる可能性はぐっと高くなります。
とても古い時代の古文書を、幼稚園児が楽しむこともできます。
通常の音声言語ではこうはいきません。
(ただし、細かな部分で方言や時代による違いみたいなものもちゃんとあって、それが違うといまいち通じないことがあるのは普通の言語と一緒です)

もちろん、「シェイプ語」という言葉を知ったからといって、今までやってきた練習に何か変化があるわけではありません。
「シェイプ語辞書」なんて便利なものがあるわけでもありません。(あったらいいなぁ。いやマジで)

でも「シェイプ語という概念が世の中にはある」ことを知ることによって、絵を描くときに「自分が描いている線は正しい表現ができているだろうか」とか「シェイプ語的にデタラメな絵になってないだろうか」とか、そういう意識を持てるようになるかもしれません。
そうすれば、より丁寧な描写を心がけるようになったり、または資料を探すときに少し楽になったりするかもしれません。

2. シェイプ語の基本は「構図」

まず、ここでは「構図」という概念をシェイプ語の基本であるとしたいと思います。
構図は、これからイラストを描こうとする際に、「このような意図で表現したい」と考えた人が最初に設計するものだからです。

ある程度のレベルの人なら基本は当然に頭の中に入っているものと思いますが、あまり背景の練習をしたことがない初心者や中級者の人には、構図の概念は少し難しいかもしれません。
たとえば以下のようなものです。

普通に女の子の絵ですね。かわいいという設定のモブキャラといったところです。
では、こうしたらどうでしょうか?

微妙な違いですが、女の子がちょっと悩んでるように見えませんか?
んで、さらにこうすると、

あなたにナンパされて困りながらも、まんざらでもない感じに見えます。
これら3つは、女の子の絵も背景も完全に同じで、位置だけ変えたものですが、女の子の表情まで変化して見えます。

「女の子の位置」というちょっとした要素にも、列記とした「意図」が隠されているからです。
(※この絵では、位置を変えただけで表情が変わって見えるよう、女の子の表情を最初から微妙な薄ら笑いにしてあります。一般的な表情表現はもっと大げさなので、通常のイラストのキャラの位置だけ変えても雰囲気はそんなに変化しません)

それから、アニメなんかの「お嬢様の初登場シーン」とかはだいたいこんな感じですよね。


真ん中にお嬢様がドーンといて、彼女が真ん中を通ると他の生徒が滝のように割れるか、大きな木の並木道がある、という形。
アニメの場合はだいたい下からパンします。

このような「中央配置の主人公」と「左右に枠となる背景」という組み合わせの構図のことを「観音構図」いいます。
登場人物の高貴さを高め、近寄りがたい雰囲気を出すために使います。
わずかにあおり構図になっている、彼女1人だけ鞄を持っていない、などの要素も、観音構図の効果を高める役目を果たしています。
(ちなみにお嬢様が登場するアニメの学校は、「校門から玄関までの道のりが一直線の並木道」という構造になっていることが多いです。これは、お嬢様の初登場シーンで観音構図を何気なく使ってしまい、あとから設定を変えるわけにはいかなくなった例も多いものと思われます)

最初のイラストが、女の子がただ真ん中にいるだけで「かわいいという設定がある」ように見えたのも、観音構図の効果です。
右寄せと左寄せの違いは微妙ですが、「左寄せ」だとどちらかといえばネガティブな状況を、「右寄せ」はポジティブな状況を表現するのに向いているとされます。

2. 細部に隠されたシェイプ語表現

今回はあくまで「シェイプ語というものがある」ことを紹介するだけのコラムなので、せっかくだから多少細かい話もします。
シェイプ語は、構図という比較的分かりやすい要素で決まるものではなく、ありとあらゆる箇所に潜みます。
描く側の心意気としては、それこそ「線1本で絵の表情は変わる」くらいの気持ちがないといけません。

たとえば以下の絵は、オーバーロードというアニメのエンディングの一幕です。
(教科書どおりのお手本のような絵だったので参照させてもらいました。実物は、描いたアニメーターの方がお疲れだったようで線がメチャクチャだったので、ここに掲載してあるのは分かりやすく工夫を入れる手間を兼ねて、俺が描きなおしたものです)

このイラストは、女性が目の前にいる相手(つまりあなた)を誘惑しているように見えるよう、細部まで工夫が凝らされています。

瞳もキャッチライトもないフラットな目

これは「意識が前後不覚状態になっている」ことを表します。
悪魔に意識を乗っ取られた人物を表現するのによく使われる技法ですが、ここでは「我慢の限界」を表すわけです。

手をほほにあてる

感情を隠し、自分を落ち着けようとする意図があります。
ですが、肝心の「目」が隠れずにしっかりとこちらを見ているため、「隠したいけど知ってほしい」というアンビバレントな感情を表現しています。
(通常は手をほほに当てる動作は、困って考え込む表現として利用されることの方が多いです)

表情

「上目づかい」は異性として好意的に思っていることを現し、かつそこに「笑み」と「赤らめたほほ」を被せることで好意の感情を強化させています。
と同時に、寄り目にすることで、この女性とその相手(=あなた)の距離が物理的に近いことも示します。

小指

90度に曲げているのは、小指を目に留まりやすくすることによって、女性っぽさを強調する表現です。
オッサンキャラが小指を立てるとオカマっぽくなるのと同じ技法ですね。
(小指を強調することでなぜ女性っぽさを表現できるのかについては諸説ありますが、個人的には、小指が重要なのではなく「指の細さ」を強調することが大事なのではと思います)

唇を強調する表現は、主にキスを連想させるためのものです。
とりわけ唇を半開きにすると、キスをねだる表情を描きやすくなります。

角は、さすがにこれはそういう設定だから付けてあるだけですが、とはいえこれ自体も、この女性の「小悪魔っぽさ」を強調する役に立っています。

このイラストでもっとも重要な要素はです。
髪は、とりわけロングヘアの場合は特に「女の武器」を表します。
それが乱れていることにより、「女の武器を振りかざそうとしている」という状況を表現しているわけです。
 
ですから、たとえば髪の量を増やしてあげると、

たったそれだけで、結婚にせっぱつまったアラサー女性が強引に既成事実を作ろうとしている絵に見えます。


このように、絵というものは、描かれた要素全てが意味を持ちます。
場合によっては、枠外にはみ出た部分や、キャラクターの背後に隠れた部分にすら意味を持たせることもできます。(閲覧者に連想させるという方法で)
逆にいえば、無意識に描いた絵であっても、「絵」として成立する以上は全ての要素が何らかの意味を持ってしまうわけです。
ですから、そういったことを何も考えずに適当に描くと、何が言いたいのかよく分からない絵になります。

とはいえ最初のうちはそれもしょうがないです。
なんせ、シェイプ語には文法などありませんし。

厳密にいえばあるんでしょうけど、それをまとめた研究書はないし、ましてや辞書や入門書など作りようがありません。(なんせ「文字」がないですからね)
仮に辞書が売ってあったところで、線1本1本が持つシェイプ語的な意味をいちいち考えて絵を描いていたら気が狂います!

なのでシェイプ語を習得するには、いろんなところから情報を集め、自分の頭の中に集積し、自在に使いこなせるように自分でなるしかないのです。
そうなるためには時間がかかるし、どっしりと腰を据えて時間をかけて取り組むしかありません。
少なくとも学生のうちに完全マスターするとかは物理的に不可能ですので、学生のうちに考えうるかぎりで限界までがんばる、くらいがちょうどいいでしょう。

とはいえ何より一番大事なのは、「自分の絵は、自分が表現したかったものを正しく表現できてるだろうか」と常に考え、正しく修正していくことです。

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