イラストにはテーマが絶対ないとダメという話

絵師なら誰しも、一度は「描いてる最中に筆が止まってしまう」という経験をします。
おそらく、中級者くらいの人が一番経験していて、初級者や上級者は逆に少ないはずです。

何らかのインスピレーションを得て描きはじめたはずなのに、なぜ作品として完成させることができないのか。
これについてはいくつかのパターンがあります。

・イメージがはっきりしていなかった

頭の中に、「かっこいい」「かわいい」などの漠然とした雰囲気を表すキーワードしかない状態で描きはじめた場合です。
「描いてるうちに何か思いつくだろう」と目論んで描いていった結果、結局最後まで何もアイデアが浮かばなくてその時点で筆が止まってしまうというパターン。

・作品として完成する前に、描きたいことを描ききった

最初に「線画が描きたい」という動機で描きはじめた人が、色塗りまできちっと終わらせる理由はありません。
最後まで完成させる理由が途中でなくなった――つまり、いわゆる「飽きた」状態。

・完成までの道のりに絶望した

描いているうちに「これもあれも」とイメージがどんどん追加され、途中で気力が尽きた。
これも「飽きた」の派生形です。

・途中で致命的な問題に気づき、リカバリーする手間に絶望した

根本的な問題に、ある程度描いてから気づくパターン。
振り向く角度が甘くて修正するのに全身の書き直しが必要になったり、ほぼ描き終わってから世界観にミスがあることに気づいたり。
逆に、完成間近になってから根本的なところを「変えたくなった」というパターンもありますね。

もちろん他にも人生色々あるかもしれませんが、絵を描ききれない理由はだいたいこのどれかに近い状況のはずです。

で、これらの問題を一気に解決する凄いやり方があって、それが「テーマを作る」という方法です。
つまりイラストを作品として仕上げるにはテーマがあればよく、それがないから制作に行き詰るのです。
テーマから設計をキチンと行って、頭の中で完成させてから制作に取りかかる。
そうすれば、イメージがはっきりしないまま描きだすこともなくなるし、途中でやることがなくなったり、作業がやたら増えたりといったこともなくなります。

1. ぶっちゃけ「テーマ」ってそもそも何よ

「イラストを描くならテーマをちゃんと考えなさい」という話自体は、絵の先生や先輩などからよく言われることです。
だいたいみんな、立ち絵しか描けない状態をクリアし、その先に進もうとすると急に言われだしたりします。

で、それを聞いた側が「どんなのことをテーマにすればいいのか」「仮にテーマを考えたとして、だから何なのか」といったことを悩んだりするのもいつものことです。
なぜなら先輩とかはだいたい、「テーマとは何か」という具体的な答えは教えてくれないからです。
言葉の巧い先生とかだとちょっとしたコツを教えてくれたりはしますが、明確に理解させてもらえることは多くありません。

なんでかというと、「テーマとは何か」を理解している人は大勢いても、それを言葉にして説明できる人は少ないから。
テーマというのは本質的に感覚的で直感的なものだからです。
「テーマとは何か」だなんて、そんな直感的で無形なものを定義することなんてそもそもできないのです。

ですが、絵を描く人は誰だって、初心者か上級者かにかかわらず、何を描くか決めてからペンを手に取ります。
その際には、「描きたい」と思ったものが絶対にあって、それがあるからこそ描きたいと思ったはずで、頭に浮かんだものが何もないのに絵を描こうとする人はいません。
仮にいたらその人は寄生獣に感染しています。
(これに「そんなことはない」と思った人は、本当に頭の中に何もないのではなく、自分が「描きたい」と思ったものが何なのかが曖昧なまま作業を進めてしまうという問題を抱えていることになります)

描きたいもの、頭に浮かんだもの、絵を描く際の原動力になるもの。
でもそれは必ずしも言葉にできるものであるとは限りません。
漠然とした雰囲気であったり、最終的に表現したい風景であったり、キャラクターの表情であったり、ストーリー上の大団円であったりと、浮かべるイメージも絵師によってバラバラです。

でもそれが「テーマ」なんです。

2. テーマの考え方

全ての絵に必ずテーマがあるのなら、だったらなんでテーマで悩む人がいるのか、ということになります。
テーマが浮かばなくて悩んでいる人は大勢いますが、描きたいものが何もなくて悩んでいる人というのはそんなに多くありません。
「テーマ」と「描きたいもの」が同じならば、テーマで悩む人の数と、描きたいものがなくて悩む人の数も同じでなければいけないはずです。

にもかかわらずテーマで悩む人の数の方が圧倒的に多いのは、テーマは「自分が描きたくて、かつ他人にもウケるもの」でなければいけないからです。
初心者のうちは「自分が描いてて楽しいもの」をテーマにするので、だからテーマで悩むことはそんなにありません。
自分がよければそれでいいし、初心者のうちはむしろそうあるべきです。

でも中級以上になってくると必ずしもそういうわけにはいかず、たとえば「友達」「美術部の先生・先輩」「即売会のお客さん」「pixivの閲覧者」などなど、他人が喜ぶ絵を描く必要性が出てきます。
ですから、中級以上の人は無意識のうちに「身近な人が評価してくれそうなテーマ」を探そうとします。
でもそんなの都合よくパッとは浮かんでは来ませんから、だから「テーマに悩む」なんてことが起こるわけです。

3. ネタ帳を大事にしよう

んで、具体的にテーマを考える方法論ですが、ぶっちゃけネタ帳を持ち歩けばいいんです。
テーマというものは、ペンを持てばいつでも都合よく湧いてくるものではありません。
なので、プロを目指すんだったらネタ帳は大事にしてください。

逆に、ネタ帳を持とうとしない人は商業美術はできません

一部の美術の先生で「テーマに悩んだらどうすればいいか」という質問に、「深く考えちゃダメ、心に浮かびゆく衝動をそのまま表現すべき」と答える人がいますが、これはプロとしてありえない愚かな答えです。
自分がポリシーとしてそう思うのは自由ですが、教え子にまでそのような価値観を押しつけるような先生には、俺としてはオナニーはおうちに帰って布団の中でやれと言ってやりたいところです。
漫画編集者やゲームディレクター・広告デザイナーなどの美術を使って商売をしている人達は、だいたい「ネタ帳を持て」と新人に教えることが多いようです。

「これはネタになりそうだ」と思ったことのほか、アニメを見てて「もっとこうだったらよかったのに」と思ったこと、そこまでいかなくても何となく街で見かけて「いい」「いやだ」と思ったもの。
普通に暮していれば、そういったものが必ずあるはずですから、それをメモしましょう。

通常は、そういった雑多なインプレッションのようなものはすぐに忘れてしまいます。
ですからすぐにメモすることが大事です。
一般には、そういうネタの類は思いついてからおおむね1分以内に忘れてしまうといわれていますので、なるだけすぐに書いてしまいましょう。
(ではお風呂で思いついてしまったら? 急いであがって濡れたまま裸でメモをとるか、でなければ忘れないように呪文のように繰り返すか、とかですかね……)

もちろんメモったところで、そのうちの99%はネタとしては使いません。
なんせ、思いつきの殴り書きですからね。
よくよく見たら実際には使いようがなかった、というケースの方がほとんどになるはずです。

でも、だからといってメモること自体に意味がないことにはなりません。
たとえ単体ではネタに使えなくても、組み合わせればネタになることだってあるし、自分の好みの方向性を分析するための資料として使ったり、もしくは「メモする」という行為自体が記憶力や発想力の訓練になるといったメリットもあります。

ノートを持ち歩くこと自体が邪魔くさい人はスマホを使えばいいだけのことで、つまりネタ帳を持つことによるデメリットなど何もないのです。


実際のプロの製品づくりでは、ただテーマを決めただけではダメで、テーマの決定、最終的な製品イメージの構築、足りない要素の補完、世界観・シナリオ・構図・要素を決定など、数多くの工程があります。
本当に大事なのは、本当は「テーマ」ではなく「正しい設計」です。
でもそれを全て説明するにはブログ1回ではとても足りないので、続きは追々書いていきます。

とはいえ、製品作りの全ての基礎になるのが「ネタ帳」というのは確かなことです。
そもそもテーマをちゃんと作れない人が、正しい設計を行うことなんてできません。

イラストの基礎が「デッサン」とするなら、テーマ構築の基礎は「ネタ帳」です。
基礎練習を放棄することが絵師失格であるのと同様に、ネタ帳を持つのが面倒くさいと思うこともまた絵師失格レベルのことです。
それはまず心しましょう。

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