自分のレベルを把握するということ

イラスト関連の会話で非常に多いのが、「何才くらいの絵に見えますか?」と質問している人です。
とりわけ中学生以下の絵師さんで、まだ初心者の域を脱していない人は、これを非常に気にする傾向があります。

とはいえ、たとえばヤフー知恵袋でこの質問をすると、だいたい無視されます。
運が良ければ「答えられません」という答えが返ってくることはありますが、律儀に「何才くらいに見えます」と答えているのは、だいたい回答者も小中学生の場合です。
高校生以上の絵師は、こういう質問に取り合う人は(そんなには)多くありません。

なんでかというと、イラストスキルは経験を積めば積むほど「年齢は関係ない」ことが分かってくるからです。
小学生なのにデッサン超完璧な子もいれば、もう大学生なのにぐっちゃんぐっちゃんという人もいます。
ですから、絵の上手下手を判断するのに年齢を指標にすることはできないのです。

ただ、だからといって「人のことなんか気にするな」と考えるのは間違いです。
イラストというのは本質的に「人に見てもらうために描く」ものなので、人目を気にするのはとても重要です。
人目を気にするというか、作品が人からどう見えるかを気にするという意味ですね。

もちろん批判などされたくないし、批判されることに慣れたくもないというのなら、それはそれで1つの「道」ではあって、そういう人はそうすればいいです。
アマチュアとして、楽しく描くことさえ忘れなければ、問題は特にないです。

ただ、批判が怖いし、批判されたら描けなくなるという人は、プロの道はあきらめていただくしかありません。
普通はみんな上級・プロ級になって人に認められたいと思っているわけで、だったら作品の評価を気にするのは当然のことです。

なので、「自分の絵は何才くらいが描いたように見えますか?」と質問する子は、本当はとっても将来有望なんです。
若いうちから自分の作品の評価を気にしてるってことですからね。
(まぁ、そういう子は言わなくてもコツコツがんばるので、普段は「あなた有望です」とか言わないんですけどね)

単にその指標が年齢であるところに問題があるだけです。
というわけで今回は、年齢が使えないなら何を指標にすべきなの? というお話。

1. 絵師にとっての5つの指標

もちろん、芸術の世界には、常識では計り知れないギリギリアウト感を過積載したような人もいて、そういう人が案外大成することもあったりはするものの、ぶっちゃけ滅多にいません。
最近はキュビズムとかダダみたいな指標の作りづらい芸術が高く評価されることもなくなってきたことだし、個人的に知る範囲では今の若い子でそういう方向性を指してる子もそんなにいません。(プロを目指すわけじゃないけど楽しいから一生懸命、という系統の子の中にたまにいる感じですかね)

ですのでここでは、ゲーム・マスメディア・広告などで利用される、いわゆる「商業イラスト」と呼ばれるジャンルを基準とします。
通常はこの考え方で、ほぼだいたいの初心者をカバーできるはずです。

他のコラムでも何度となくポロッと話題に出してはいるのですが、絵師の上手下手はどうやら「デッサン」「色彩」「ディテール」「デザイン」「テーマ」の5つの指標で計れるようだ、というのが個人的な見解です。
まぁ、その観点が絶対ではないんですけど、みんなが欲しがる魅力的な商業イラストが描ける状態を至上とする指標の元では、一般に多くの人が魅力を感じるポイントがこの5つということです。
これを分かりやすい呼び方に変えたものが下記の一覧になります。

1. 正確な描画力

いわゆる「デッサンが狂ってる」と呼ばれる状態を極限まで抑え、正しく見える絵を描く能力のことです。
または、ポーズを力学的に正しく描く能力も含まれます。
一般に初心者絵師は、上手下手をこの能力だけで推しはかる傾向があります。
 
正確な描画力には、サブスキルとして「美しい線を描く力」「立体感覚」「人間や動物の解剖学(または機械の構造)を理解する力」「重心やSカーブを意識する力」「パース」などがあります。
それら全てがワンセットになって、初めて「正確な描画ができる」という感じでしょうか。
 
ただし、同じ「正確な描画力」スキルでも、それらが全て完璧じゃないといけないかというとそうではなく、あらゆるプロに共通して求められるのは「美しい線を描く力」だけです。
それ以外は、もちろん全て完璧であるに越したことはないものの、だからといって「完璧な絵しか描けない」というのも逆に問題で、そういう人は商業的には「扱いづらい絵柄」と受け取られる傾向が強くなります。
なので得意分野が明確であるとか、全体のバランスがとれているとか、仕事に合わせて作風を変えられるとか、そういう絵師としてのアイデンティティが確立できていればOKっぽいです。

2. 色彩感覚

色をちゃんと扱う能力は、実は突き詰めれば「5. 表現力」の一部だったりするんですけど、ここではあえて別枠としています。
多くの人は「表現したいものを表現すること」と「色が美しいこと」を分けて考える傾向があるからです。
 
色彩感覚のサブスキルには、「よいカラー計画を考案する力」「塗りの際に正しい色を選択する力」「複数の塗り技術を、状況に合わせて正しく使い分ける力」などがあります。
(一部「色彩感覚は網膜の体質だけで決まり、後天的な訓練はできない」と勘違いしている人がいますが、ごく普通に間違いです。カラー計画の立て方の手順や、テーマに即した色の選び方なんてのは網膜は教えてくれません)

3. 精神力

これは要するに読んで字のごとくですね。
後天的には鍛えられないと考えている人も多いので、あえてリストアップしてあります。
もちろん、がんばって鍛えれば鍛えられる能力です。
 
サブスキルは「ディテールの細かいとこを仕上げるていねいさ」「最後まで作品を作り上げる我慢強さ」「完成までのスケジュールを立てる力」の3つです。
 
精神力の本質が大部分は「体力」だと思ってる人もいますが、これも間違いです。
体力ももちろん大事ですけど、それよりは「自身の行動の必要性を正しく認識し、自分を律する能力」の方が重要で、この能力をよく鍛えている人は、より少ない体力で作品制作ができます。
イラストに限らず、一般にスキルを覚えるとは、すなわち「そのスキルを行使する上で重要なポイントを習得する」ことに等しく、何が大事で何は大事でないかを分かってる人は、無駄な作業に無駄に体力を消費しなくていいからです。
(まぁ、根本的に絶対的な体力量が物理的に少ないのもそれはそれで問題ですから、そういう人は絵を描くのにまずジョギングが必要、なんてことになるのかもしれませんが)

4. デザイン力

そもそもデザイン能力は、イラストを描く能力とは全然別の無関係なスキルで、絵が描けるからデザインもできるかというと、そんなことは絶対ありませんよね。
「ギターが弾ける人は作曲もできるはず」なんて思う人はいません。
 
とはいえ一般に日本の商業イラスト業界では、絵師にデザイン力を求めるのが一般的であり、会社によっては絵師のことをそもそも「デザイナー」と呼んだりします。
なんで絵師はデザインもできて当然というイメージがあるんでしょうかね……?
 
この、なんでもかんでも特定の人に押しつけちゃう日本の商習慣って、もうホント何とかなんねぇの馬鹿じゃねぇのって感じなんですけど、でもまぁ俺も含めて「デザインもできたらやりたい」と思っている絵師は多いのでリストアップしてあります。
絵師にとってデザインスキルは必須スキルではありませんが、できないよりはできた方が絶対いい、という類のものです。

5. 表現力

これは非常に意味の広い言葉です。
サブスキルは「テーマを考案する力」「設定やシナリオを考える力」「演出テクニック」「ポーズを考える力」「構図設計」などなど、数限りなく無数にあります。
 
それを全部ひとくくりにしちゃうのはどうかと思ったんですが、要するに「伝えたいことを正しく伝える力」と考えれば、1つの能力といえるのかなと思います。

自分の絵を客観的に評価する場合、手近な人達と自分の実力差がどれくらいあるかを、上記のような観点で比較すればいいわけです。

ちなみに当サイトの多くのコラムでは、上記の 1. ~ 5. の能力が、どれか1つ以上プロとして何とかやっていけるレベルに達している状態を「上級」と定義しています。
なので、「デッサンはプロ並みだけど他は初心者」なんて状態もありえます。
また、1. ~ 5. の能力全てが上級に達している状態が「プロ級」です。
(実際には1つくらい不得手があってもプロにはなれますケドね)

ただ、俺が「初級」「中級」「上級」と呼んでいる状態は一般に多くのプロの人達にしてみれば全て「初心者」であり、俺がプロ級と呼ぶ状態になって初めて「なんとか使い物になるレベル」なんだそうですよ。
当然かもしれないけど世の中キビシー!!!

2. チャート図で自分を客観視してみよう

初心者の中には、自分が今どれくらいの段階なのか知りたいという人も多いと思います。
そういう人は、どうでしょうね。
こういうの作ればいいんじゃないでしょうか。

「プロデビューする前に当然習得すべきスキル」を全て習得し終えている状態が
「周囲のアマチュアと比べてそう大差ない」くらいが
「最近取りかかり始めたばっかり」の状態がになります。
完全に未経験だったらです。

直近1~2ヶ月以内に描いたイラストのうち、一番出来がよかったものについて評価を行います。。
色が塗れる人はカラーのもの、さらに背景が描ける人は背景つきのもの、デザインもできる人はキャラクターがオリジナルのものです。

で、自分で描いたものを適当に用意し、「これは自分が描いたものではない。友達が描いたものだ」と言い聞かせながら、チャート図に数値を入れていきます。
自分で自分のために作るものですから、数値はフィーリングで決めてしまって構いません。
見栄を張る必要も、謙遜する必要もありませんし、自分に嘘をつくのは絶対にダメです。

「プロとしてギリやっていけるか」という観点で、「まぁなんとかなるやろ」と思うなら自己判断で5を付けてしまってもいいです。
2や4がどんな状態かという決まりも特に作っていませんし、「周囲のアマチュア」なる人達がどれくらいのレベルを指すのかも特に決まりはありません。

ただ唯一、「5でないのなら、自分に足りないものは何?」ということを考える必要はあります。
「まだ足りないものがある」と思うからこそ、自分の意志で4以下を選んだのです。
そのためのチャート図ですからね。
全5要素について、自分に足りないもののリストを作っていきましょう。

とはいえ1や2の状態の人は、自分に足りないものの心当たりがありすぎて、逆に何を挙げたらいいか分からなかったりするかもしれません。
そういうときは、「少なくともこれは今の自分にはないよね」というスキルが1つでも思いつけばOKです。
本当にヤバいくらいマジで何にも浮かばなければ、(本当は自分で思いつくのがいいんですけど)先生や先輩に相談して挙げてもらっても構いません。

3. 自分に足りないものを持ってる人を数えてみる

チャート図が完成し、今の自分に足りないものをリストアップしたことで、自分の実力がはっきりしました。
でも「何才くらいの絵に見えますか?」という質問は、本当は「世間一般全体と比べて、自分はどれくらいのレベルなのか」ということを知りたいのではないでしょうか。

ぶっちゃけそんなの分かるわけないし、仮に分かったとしても絶望しかないとは思いますが、とはいえ手の届く範囲で推測することはできます。
「今の自分にないもの」のリストはすでに手元にあるのですから、それが出来ている人の数をpixivやツイッターのフォロワーなどで数えればいいのです。
なるだけ身近な人がいいのではと思います。

その割合が2人に1人よりも少なければ、そのスキルについて平均以上の実力があることになります。
逆に多ければ、スキルはまだ平均よりも低いのです。
で、平均以上のスキルの数が平均未満のスキルよりも多ければ今のあなたは平均以上だし、逆なら平均以下ということになります。

まぁ、さすがにそこまで厳密に計算なんかやんない方がいいと思うんですけどね。
嫌になるだけだし。

でも自分にないものを持ってる人を数えることには意味があって、つまり数える過程でチェックした人が直近、今のあなたの先生なんです。
その人達からしっかり技術を盗んで、あわよくば超えていきましょう。

「自分のレベルを把握する」とは、つまり効率的に人から技術を盗むためにやることだからです。

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