超王道・トーンを使った基本の塗り方

相変わらず「色使い」で悩む人は多いです。
とりあえず分からないなりに適当に塗ってみて、完成直後はそれなりに描けたように見えたけど、他人の絵と比較すると明らかにケバかったり。
そんなときちょっとイラッとするんだけど、どうしたらいいかは分からないからモヤモヤしてみたりするんです。

デッサン練習は最悪ラクガキでいいので、初級段階の練習くらいなら子供でもできます。
でも色使いの練習には「正しい色を選ぶ」という考える作業が必要なため、どうしたらいいか分からない人が多いです。
どちらかといえばデジタルでしか塗ったことがない人の方が、色で悩みやすいようです。

アナログの場合は使う絵の具の種類である程度タッチが決まってしまうのと、使える色数もお小遣いの金額で決まったりするため、実際に塗り始めてから悩むということはそんなにありません。
ですがお絵かきアプリとなると話が急にややこしくなり、たとえば「肌色」に相当する色だけでも物凄い数あります。
今試しに手持ちのアプリを立ち上げて確認してみたところ、自然なリアルタッチの場合に、人間の肌に使える色だけでも計算上2500色前後ありました。
これに特殊な環境光の場合や亜人の肌の場合なども加えれば、選択肢は数万色にのぼります。
そんなに選択肢があったら、そりゃあ悩むのも当たり前です。

にも関わらず、色について本当に何にも知らない人が最初にどうしたらいいのかは、世の中的に情報がそんなに多くありません。
てなわけで今回は、美しく塗りたい人が最初に行うべき勉強法の話。

まずはとにかく「色彩学」

答えから言ってしまうと、最初に色彩学の勉強をしてください。
「難しい知識なんかいらない。ちょっと軽くでいいんだよ」とか思ってるからダメなんです。

《美》とは、そんな簡単に作れるものではありません。
専門知識をガッツリ勉強してください。
このブログの読者はガチ勢のはずですが、楽をしたければどうぞご自由に脱落してください。
色彩学なくして、塗りを極めるなんて無理です。
(19世紀の色彩理論の発表前にも塗りを極めた画家はいましたが、昔は自然のものを自然色のままに仕上げる塗り方しかありませんでした。なので美しく塗るには、とにかく何十年でも練習するしかなかったのです。「美しく塗る」というスキルが簡単に手に入るようになったのは、ひとえに色彩学のおかげです)

また色彩学については、ネットで済ますよりも紙の本を買った方がいいです。
イラスト入門サイトの場合、「トーンの種類」と「カラーホイールの見方」という2点のみが断片的に軽く書かれていて、その具体的な使い方については気合いでやれで済ませてあるケースが非常に多いからです。

しかもそれらの記事の多くは、マンセルシステムやPCCSなどのアナログ向けカラー体系の説明であることが多く、初心者がデジタル塗りに応用するのは難しいです。
デジタルでない用途向けに作られた仕組みをデジタルに応用するには、それなりに根拠を学ぶ必要があります。
ですから、色彩学はちゃんとした本で勉強をした方がいいんです。
(ちなみに色彩学の本を買うときは、間違って「色彩心理学」の本を買わないように気をつけてください。美術絵画を美しく塗るための学問である「色彩学」と、色に対する人間の反応を科学する「色彩心理学」は別物です。色彩心理学の本には、絵の描き方の具体的な方法論の記述は基本ありません)

デジタル塗りの場合、「パステルタッチの絵を描くときは、色をパステルトーンに統一しましょう」という説明では、パステルタッチの絵が描けない子もいます。
これは「パステルトーンと呼べる色」だけでもデジタルの場合は数万色以上にもなり、これがアナログ向け体系の総色数の数倍にもなってしまうからです。

つまるところ、デジタル塗りは色数が多すぎて迷うんです。

だったらどうすればいいか。
簡単です。
使える色数が多すぎて迷うのなら、色数を制限するマイルールを作ってしまえばいいのです。

トーンオントーン・デジタル版

「トーン」とは、色の雰囲気のこと。
「ビビッドトーン」「パステルトーン」「ペールトーン」など、言葉くらいは聞いたことがあると思います。
日本色彩研究所というところが作ったもので、全部で12種類あります。
このトーンを決めてあげると、完成する絵の雰囲気がある程度決まる、というものです。

アナログ塗りのもっとも基本となる色選択法では、このトーンを利用した方法で、「トーンオントーン」というものを用います。
全ての色を同じトーンで統一することでイラスト全体の雰囲気を統一する、という塗り方です。

パステル調の絵が描きたければ、パステルカラーだけを使えばいい。
暗い雰囲気の場合はダークトーンだけを、オシャレな雰囲気ならペールトーンで統一とか。
実にシンプルな考え方です。

デジタルの場合でもこの考え方は使えますが、ただしデジタルは「パステルトーン」と呼べる色だけでも物凄くたくさんあるので、さらに絞り込まなければいけません。
そのためには「HSV」という方式を使います。

通常多くのお絵かきソフトは、HSV方式での色選択ができるようになっています。
(Windows標準のMSペイントの場合は「ESL」と表記されているなど、アプリによって違いはありますが、いちおー「HSV方式」がもっとも広く知れ渡った名前です)

H(色相)は色の種類で、赤・橙・黄・緑・水・青・紫などの色の種類を360分割したもの。
S(彩度)は色の鮮やかさで、数値が大きければ原色に近い鮮やかな色合いに、数値が低いと灰色じみた鈍い色合いになります。
V(明度)は色自体の白さや黒さを表す数値で、数値が高いと白っぽく、低いと黒っぽくなります。

詳しい話は専門の本を読んでもらうとして、ここでは
・彩度と明度が決まれば「トーン」が決まる
・さらに色相も決めれば色が確定する

という2点を覚えてください。

で、俺がおすすめするもっとも簡単なトーンオントーン塗りのやり方は、塗り始める前の段階で「S」と「V」を完全に固定してしまうことです。
つまり、「彩度と明度はいじってはいけない」というマイルールを作ってしまうわけです。
色の選択は「H」の調整のみで行う。
(「美しくないと感じた場合だけ多少融通を利かせてよい」くらいの追加ルールならあってもいいと思いますが、一般的な風景画やストーリーイラストの場合は、彩度や明度をコロコロいじる必要はそもそもないはずです)

「S」と「V」が固定されれば、色数は360色まで絞り込めます。「黄色」だけなら10色くらいしかありません。
「真っ白」と「真っ黒」はあらゆるトーンに調和する色なので例外としてもいいとして、それでも362色です。

この状態であれば色で迷うことはそんなにありません。

また、最初のS・Vの設定がよくないことにあとで気づいちゃった場合でも、調整することもできます。
調整はお絵かきソフトの「色相・彩度」という機能を使えばいいです。(クリスタの場合は「色相・彩度・明度」)

トーンオントーンで塗れない箇所は?

ただし、今回紹介した「SとVを固定する」方法にも欠点があります。
彩度・明度をいじっちゃいけないマイルールをあまりにも厳格に守りすぎてしまうと、影も付けられないし、主体と背景のトーンも同じになって主体が絵に溶けこんでしまいます。
また選択したトーンによっては、肌色に合致する色がなくて人間が描けないこともあるでしょう。
ですが、だからといって臨機応変で何とかしてるだけでは、今までの訳も分からず何となく塗ってる状況と何も変わりません。

だったらどうするかってぇと、SとVが固定されているがゆえに色を決められない箇所は「トーンイントーン」という色選択法を使います。
これは、トーンの中に別のトーンを混ぜる、という意味です。

絵の中にすでに使われている色と同じ色相の色は、トーンを変えても色の調和が崩れません。
下地に肌色でベタっと塗った箇所は、深みを出すためにグラデーションを使ってもちゃんと馴染むということです。

また、まだ絵の中に使われていない色相の色であっても、すでに使われている色相と調和する色は、トーンを変えても調和します。
たとえば絵の中に「赤」がすでに使われていれば、赤の調和色である「青」は、異なるトーンの色を使っても構わないわけです。
同じように、トーンの中に肌色が含まれていない場合には、肌色と合う色(たとえば赤や空色)をあらかじめ背景に使っておけば、人間が背景に浮足立ちません。
逆に赤と調和しづらい「青紫」や「黄緑」は、異なるトーンの色を無理やり使うと不自然になりやすくなります。

ちなみにここでいう「色が調和する」とは、単に「色同士の組み合わせが美しい」という意味です。
もし「色と色が合うとはどういうことか」がそもそも分からない人は、色彩調和理論というものを学べばいいです。色彩学の比較的中難度以上の本で触れられています。
ですが何となくでも思うところがあるなら、調和するかどうかを自分独自の感性で決めても構いません。
(ただし「あらゆる色同士は全て調和する」という考え方は持ってはダメです。それは純粋に間違いです。色は組み合わせによっては調和しないことがすでに証明されています)

なお一部、今回のコラムを見て「ようするに何色でも自由に使っていいんじゃん」と思う人もいるかもしれませんが、そうではありません。
絵には必ず基本となるトーン(ベーストーン)が1つあり、それが雰囲気を決定づけます。
ベーストーン以外の色は、あくまでも忙しくなりすぎない程度に使うのがポイントです。

また、ダークグレイッシュトーンのイラストの中に1ヶ所だけビビッドトーンを使う、みたいなあまりにも極端すぎる場合は、たとえトーンイントーンのルールに則って調和色同士で使う場合であっても話が全然別だったりもします。
そのへんは、どこまでなら許されるのか、プロの作品をよく観察することです。
(もちろんプロのイラストの中にも、教科書通りの凄く参考になるイラストや、邪道なテクニックを駆使したあまり参考にならないものまで色々あります。最初のうちは「パッと見すっきりしている」と感じるものを優先的に研究するといいでしょう)



少し慣れれば、「トーンオントーン」と「トーンイントーン」の組み合わせだけでも、とりあえず何とかなっちゃうことが分かってくると思います。
常日頃から配色で悩んでいる人は、この2つを使ってみてください。

悩みながら何となく塗ってきた期間が長い人は、多くがトーンオントーンっぽいテクニックを無意識に使っているはずです。
なので今後はそれを意識的にやるようにするだけで、テクニックはすぐ手に馴染むと思います。

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