鉛筆を手に取るよりも手前の段階での作業

絵を描こうと思い立ち、ノートを開き、ペンケースから鉛筆を手に取ってから、ふと手が止まることがあります。
鉛筆を手に取ったからには何か描きたいイメージが必ずあるはずで、ネタすらないのに鉛筆を握るわけが絶対にないんですけど、それでも描けないことがあるんです。

そんなとき頭の中はどなってるんかっちゅーと、ようするに「イメージが構図になってない」のですね。
絵が描きたいと思っているのに、頭の中のイメージが絵じゃないんです。
だから描けないんです。

ラクガキをしようと思い立った瞬間に思いついたアイデアを、ファーストイメージ(または人によってフラッシュイメージ、インプレッション、もしくは単に「来た」「天使」などとも)と呼びますが、これは通常、すぐに描きはじめられるほどには明確でない場合が多いです。
はっきり決まってるのは「主人公の顔だけ」とか「景色の一部だけ」とか、ひどいときには「雰囲気だけ」「気持ちだけ」なんてこともあります。
とりわけ文章系の趣味から転向してきた絵師なんかだと、ファーストイメージが小説の体裁をとっていることも多いです。

ですから、そんなもんをいきなり絵にしようって方がそもそも間違いなわけです。
というわけで今回は、ファーストイメージを構図設計に落とすまでに、どういう順序で何を発想すればいいのか、という話。

1. プレミスに落とす

まずファーストイメージが浮かんだら真っ先にやるべきなのは、それをプレミスに落としこむ作業です。
プレミスとは前提という意味の英単語で、ようするに「自分は何がしたいの?」ということです。

通常、プレミスは「5W1H」からなる1文です。
たとえば、「妖精の女の子が明るい草原を散歩している」「暮れなずむ未来の空港から、SFチックな戦闘機が発進しようとしている」などです。
2文はいりません。必ず1文です。

もしプレミスが2文以上になってしまう場合、それはファーストイメージの段階ですでに余計な肉が付きすぎているためです。
つまり一番描きたいものは何なのか、優先順位がはっきりしていないので、その場合は1文になるまでそぎ落とすことが重要です。
(ただし余計な肉もちゃんとあとで使います。決して捨てないでください)

また、ファーストイメージが、プレミスに落とせないほど曖昧なこともあります。
イメージそこそこしっかりしていれば文章は自然に浮かぶはずですが、それすら浮かばないという場合です。
そういうときは、自分のネタ帳をひっくり返すとか、でなければネタサイトで検索するとかして、自分が何を描きたいと思っているのかをとにかく特定します。

プレミスが決まらないことには、以降の作業はどうしようもありません。
自分でも何がしたいのかよく分からないまま作品作りをしたところで、出来上がる作品は絶対によく分からないものにしかなりません。
だがそこがいいという人は好きにすればいいですケドモ。

2. コンセプトイメージをまとめる

プレミスさえ決まってしまえば、初心者とかは割と勢いだけで絵が描けてしまうことも多いです。
ですが中・上級者になってくると、だんだん描いてる途中で「ふと手が止まる」ことが頻繁に起こるようになります。
なぜなら、中級以上の人は初心者よりも失敗した経験が多く、「ホントにこれでいいのかな?」と立ち止まってしまうからです。

プレミスはあくまで「自分が何をしたいのか」であり、つまり個人的で自分勝手な妄想です。
だから「自分勝手な妄想じゃダメだ」と分かっている人ほど手が止まるんです。

そんなときは、プレミスを他人が見ても分かるように表現するには、という設計に置き換える必要になります。
それをコンセプトイメージといいます。

プロなんかは、パッと見で「たしかにこれならヒットするわ」と思えるようなかなり万全なコンセプトを作成します。
そうしないと企画会議に通らないからです。(当たり前)
アマチュアの場合、企画会議は脳内で個人的にやっていただければいいですが、少なくとも途中で手が止まらない程度の計画性が必要です。
ご利用的は計画的にです。

コンセプトイメージは通常、以下のような情報の集まりです。

1. プレミス

→ そもそも何がやりたいのか

2. 全体的な作風

→ ジャンル設定

→ 雰囲気・タッチ(ライトとかダークとか。色彩設計を含むことも)

→ 誰向きの作品を作るのか(友達? Twitterのフォロワーさん? pixivの目の肥えた人? コミケのお客さん?)

3. アウトライン(ストーリーイラストの場合)

→ ストーリーの教訓

→ 世界観

→ 人物設計・バックストーリーなどなど

→ プレミスからそぎ落とした肉

これくらいあればだいたい大丈夫です。

通常、多くの人が行き詰まりやすいのは「3.」のアウトラインの部分だと思います。
ですが最初のうちはそんなに深く考えなくても、1~2行くらいの状況説明文があれば十分です。
初心者のうちはあまり無理に深掘りをせず、さくっと構図設計に入った方がいいです。
できないものを無理してやっても、考えすぎて描けなくなるだけで意味がありません。

ですが経験を積めば積むほど、そこそこ設定が深くないと完成品が安っぽくなることに徐々に気づくきます。
最終的には、イラスト1枚描くにも、短編マンガ1本分くらいの設定が欲しいなと思うようになると思います。
それから「教訓」の部分についても、ストーリーテリングの基本としては本来必要ないものなのですが、世の中にはストーリーに教訓がないと「何が言いたいのかよく分からない」と感じる人も多いので、読者に対する親切心ということで一応入れておいた方がいいです。

で、設定をざっくり決めて、それをさらに深掘りしていくわけです。
深掘りのやり方は人それぞれですが、個人的にいい感じと思った方法を紹介します。

ちなみに当サイトの他のコラムでは、コンセプトイメージのことを「テーマ」と呼んでいます。
ですがテーマという言葉は、ケースバイケースで「プレミス」単体を意味したり、「コンセプトイメージ全体」を指したり、または「ストーリーの教訓」の部分のことだったりと意味が割と安定しない言葉です。人によっては「先生から与えられた課題」とか「モチーフ」という意味だったりもします。
なので最近は自分ではあまり使わないようにしています。
他のコラムを後で読むと混乱するかもしれませんが、そのときはすいません。。。

3. 設定の深掘りをする

・1人連想ゲーム法

まずは、モチーフ素材となるアイデアを、全く何もないところから捻出します。
モチーフはキャラクターデザインや世界観設計など、様々なアイデアの素にするものですから、前項で作ったアウトラインの規模が大きければ大きいほどそれなりに数が必要になります。
なのでいくつか考案しておくに越したことはありません。

ゼロからアイデアを生み出す方法としてはブレインストーミングが有名ですが、もしあなたがボッチであればこの方法は使えません。
ブレインストーミングはあくまで大人数で行うことを前提とした方法論ですし、紙や場所を大量に必要とします。

そんなときは、効率は少し悪くなりますが「1人連想ゲーム」が使えます。
やり方は簡単で、コンセプトイメージに登場する言葉の中から適当に1つ選び、そこから連想される言葉を次々に思い浮かべていって、気に入ったキーワードが登場するまでそれを続けるだけです。
通常、50回ほど連想すれば、全然関係ない全く新しい単語になります。

その際、紙にメモするのは気に入ったキーワードだけで構いません。
あまり手ばかり動かしていると、そのことに気力を取られて発想力を十分に発揮できないからです。
(手を動かしながらの方が頭がすっきりする人は、書きながらの方がいいです)

この方法であればボッチでも大丈夫です! よかったですね!
トイレでご飯を食べながらでもできますよ!
まぁ、少し臭いけど。

・キャラクターインタビュー法

モチーフが決まったら、それを使ってストーリーアウトラインを広げます。

ただしスチルイラストの場合はそんなに凝ったものでなくても、「女の子が日課の散歩をしている話」みたいなシンプルなアウトラインで十分です。
起承転結やオチも、必ずしもいりません。
ですが、少なくともイラストに登場する世界・人物・前後の出来事については、マンガと同じような設定が必要になります。
(イメージが膨らまないと感じた場合は、クライマックスシーンのあるちゃんとした起承転結を作った方が楽な場合もあります)

その際によく利用とされるのが「この子はどういう子だろうと想像する」という方法です。
生まれは? 好きな食べ物は? 出身地は? 両親の仕事は? など、主人公にどのような設定をかぶせるのかを質問形式で作っていくのです。

この方法はキャラクターインタビュー法といって、その主人公がどういう人物なのかを、実際に本人に直接聞いてしまうやり方です。
あまり脳みそに負担をかけずに、自然に湧き出るアイデアがそのまま使えるメリットがあります。

・もしもクエスチョン法

キャラクターインタビュー法は直感的に分かりやすい方法ですが、質問をあらかじめ決めておかなければならず、しかも場合によっては、キャラクターがインタビューに答えてくれる程度には勝手に動いてくれる必要があります。
ですから、「キャラが頭の中で勝手に動く」という感覚がない人にはできないことがあります。
できあがる設定も、「どこかで聞いたことのある」ものになりがちで、なので主人公格のキャラクターを完全ド新規で起こす場合はやや面倒です。

そういう場合は、「もしもクエスチョン法」という方法が使えます。
設定が完成するまでのスピードでは劣るものの、こちらの方がどちらかというと汎用的で応用範囲は広くなります。

やり方はまず、よくあるテンプレでいいので、とにかく人物を作ります。
その際、キャラクターは必ずしも勝手に動いてくれる状態でなくてもかまいません。

あるていどまで作ったキャラクターに、「もしこのキャラが女(男)だったら?」「職業が会計士でなく殺し屋だったら?」「実は神の末裔だったら?」「実はすでに死んでいる?」「胸に七つの傷がなかったら?」などなど、作った設定をどんどんひっくり返していくんです。
質問は場当たり的にその場で用意すればいいので、あらかじめ考えておく必要はありません。
色んなパターンを考えて、最終的に気に入ったアイデアだけを使えばいいのです。

そしてそこそこキャラが固まったら、改めてインタビュー法でさらに膨らませることもできます。
インタビュー法で膨らませた設定を、再度もしもクエスチョン法で膨らませてもいいのです。

4. 構図におこす

様々な設定を作ったら、それをいよいよ構図に起こします。
その際に注意することは、
・優先度の高いものがより目立つ設計になっているか
・「せっかく作ったから」といって全部のアイデアを無理やり詰め込もうとしていないか

の2つくらいです。
美術とは、本来自由の類似語であり、作者は思いの赴くままに構図設計していいのです。

ですが、あまりに自由すぎて手が止まるようであれば、そのときはサムネイルを作った方がいいでしょう。
構図設計っつってもいろんなパターンがあり、設定があれば必然的に決まるというものでもないからです。
サムネイルは「親指の爪」という意味の言葉ですが、ようするに「小さなイラスト」ということです。

3センチ×2センチとか、まぁ大きさは適当でいいんですけど、描きやすいサイズの小さな枠に試しに構図設計してみるんです。
この方法であれば、いくつものバージョンを簡単にポイポイっと作ることもできます。

プロ絵師の中には「ラフ50枚とか無茶ブリだろ!」とクライアントに怒る人がいますが、そういうときはサムネイルでいいんです。
「とりあえず試しに」描くのなら本格的なものなんかいりません。
ネタどっさり持ち込んでも、New Type Version の打ち込みに放課後まで待たなくていいんです。
1万年と2千年後まで愛してる必要もありません。5秒で大丈夫です。

イメージをまとめたいときや、たくさんのアイデアを並べて比較検討したいときは、とにかくサムネイルです!
1にサムネイル、2にサムネイル。3、4がなくて5にサムネイル!
(3と4はないです。あってもいいけどどうせサムネイルです)

またサムネイルは、ポーズがうまく決まらないというときにも使えます。
少しずつ動くパラパラマンガ風のサムネイルをいくつも描いて、一番かっこいいと思うコマを採用すればいいからです。


「できない、できない」と1人で勝手に悩む人の多くは、描く手前で「考える作業」が必要なのだということを軽視しがちな傾向があります。

ですが、答えというのは考えなければ浮かばないものなのです。
それは数学の問題を解くのに数式が必要なのと同じ理屈で、数式は覚えてないけど計算はしたいとか、そんなの絶対無理です。
構図が浮かばないなら、浮かぶような設計方法を頭に入れるしかありません。

そういうのって、最終的には自分なりの方法を見つけていく必要がありますが、当コラムの内容がその役に少しでも立てればと思います。

「表現力」の鍛え方

世の中には「自分には生まれついての素質がない」という謎の理由で絵をあきらめてしまう人がいます。
別に超能力の訓練をしてるわけじゃなし、多くの人には実際にできていることが俺にだけは無理とか絶対あるわけないんですけど、どんなに強く言っても生まれついての素質なるオカルト謎エネルギーの存在を信じて疑わない人は必ず一定数います。

まぁ、そう思わなきゃやってらんない気持ちは分からんでもないですが、とはいえ上級・超上級・またはプロを目指すなら、そんなものを信じるなど許されません。
むしろ信じた時点で人生終了だと思ってください。

一般に多くの人が素質の存在を感じてしまうのは、通常多くの場合は、同い年なのにやけに巧い子の絵や、超上級のプロの絵を見たときでしょう。
とんでもない色彩感覚、常人のものとは思えないデザイン力、まともな神経で思いつくとは思えない表現力を目の当たりにしたとき、自分に同じことができるとはとても思えないという感覚を覚えます。

でもそういうのって、ようするに「なぜそんなものが描けるのか分からない」というだけのことです。
同い年の子の絵を見たときには「同い年なのだから、絵に対する訓練量は同じくらいのはずだ」と思いがちですが、なわきゃねぇだろ、アホかよ。おまえそいつほどがんばってねぇだろとしか言いようがありません。
また、プロの絶対的な実力に圧倒されたときには、「どういう訓練をすれば描けるのか分からない以上、訓練方法など存在しないに違いない」と考えてしまいますが、それも絵の訓練方法の研究とかしたのかよ。にわかが勝手なこと言うなということになります。

ようするに単純な思考停止であり、少し考えれば分かることで、そして間違っているのです。
心の平穏を保つためにそう考えないといけなかったのかもしれませんが、間違いは間違いであり、事実は事実です。
自分がガチ勢である自覚があるなら事実は認めましょう。
自分が人より劣ってるのは、がんばりが足りないからです。

言うまでもなく、実際には訓練方法は存在するのです。
ただ多くのプロは、そういった訓練方法のようなものをとんでもなく苦労してようやく見つけているもので、具体的な方法論を安易には語りたがりません。
また、頭の中で体系立っていないことも多く、教えたくても教えられないのです。
(短期で集中して覚えたことは概念を整理しやすいので人に教えるのも簡単ですが、長い時間をかけて習得したスキルは頭の中でぐちゃぐちゃになっていることも多く、巧く言葉にできないことが多いです)

でも、訓練方法はたしかに存在する、ということだけは絶対に確実なのです。
というわけで今回は、中級者がぶつかりがちな素質の壁のうち、「表現力」に関する訓練方法をまとめてみたいと思います。

特に「同じものを描いているはずなのに、あいつの絵ばかりが人に注目される理由が分からない」と考えがちな人の半数は、表現力で劣っていることが原因です。
ぜひ参考にしてください。

1. 「表現力」とは何か

そもそも「表現力」とはどういう能力のことなのでしょうか。
つまり「表現とは何か」の定義の問題です。

中途半端な芸術家崩れなんかは、「絵を描けばそれは表現、つまり芸術家としての生きざまそのものが表現行為なのだ」とか言いそうですが違います。(きっぱり)
そんなこと本気で言ってたらそいつ間違いなくアホです。
いやだわ、早くすりつぶさないと。

表現とは、人間が誰かに何かを伝えたいと感じたとき、その感情に基づいて起こす行動のことをいいます。
絵師の場合は、誰かに何かを伝えたいと思って描いたイラストのことを「表現物」と呼びます。
そして、その行動の結果生まれた絵を相手が「美しい」と感じたとき、それは「芸術」と呼ばれます。
(中には、何かを伝えたいという気持ちが明確でない状態で描いている人もいるでしょうが、「人に見てほしい」と思った時点で「素敵だ(またはカッコいい、かわいい)と思ってほしい」という気持ちがあるはずです)

ですから、その何かを伝えられた相手が、表現者の意図を正しく受け取れなければ、それは表現物とは呼べません。
ただ「表現しようとして失敗した何か」でしかないのです。

(伝える相手のいない自己満足でも表現は表現だ、と思う人もいるかもしれません。
でもそれは一生アマチュアでいることを決めた人だけが思っていいことです。
特にプロの商業イラストレーターを目指すならその考えはダメで、「伝えたいことが正しく伝わらないのは自分が下手だからで、それ以外の理由はない」と考えることがとても重要になります)

こちらが描いた絵の意図を相手が正しく理解できたとき、それを「表現が巧くいった状態」といいます。
ですから、正しく伝わらなかったらそれはただの「失敗」です。
そういうふうに考えなければ訓練にならないのです

イラストの場合は、何の説明もしなくても相手が絵の内容を理解し、こちらの意図通りの感想を抱いてくれたら勝ちです。
カッコいいキャラを描いたつもりのものを見せた結果、「カッコいいね」と言ってもらえたら成功、「カッコ悪いね」「下手だね」だったら失敗、「かわいいね」だったらドローといったところでしょうか。
表現を成功させるためには、やみくもに何となく描いていてはダメで、分かってもらえるように描かないといけないわけです。

(ちなみに初心者の模写練習であれば、人に見せた結果「なんだこりゃ」と言われても仕方ありません。それは別に分かってもらうことを意図したものではなく、その手前の基礎練習だからです。でも「分かってもらいたい」と思って描いたものが分かってもらえなかったら、それは失敗です)

2. 表現力を鍛えるために何をすべきか

さて。具体的な方法論です。
表現力には3つのレベルがあり、そのレベルによってやることが変わってきます。

ただし、表現力レベルの低い人ほど、自分の能力を高く過大評価する傾向があります。
表現力というのは意図的に鍛えないと自然には伸びない能力で、生まれてこの方なんの訓練もしてない人は基本的にレベル0です。
意識して訓練した覚えがない人は「自分は大丈夫」と勝手に思い込んでいないか、一度思い直してみた方がいいでしょう。

レベル0. 表現力を鍛える必要性が理解できていない段階

つまり「俺に合わせろ」「俺を理解しろ」タイプの人です。
それから「話せば分かる」という信念がある人や、「雑談が続かない」「この人は俺を分かってくれない、と感じることが多い」人も含みます。
個人的な目算では、日本人全体の60~80%はここに該当するはずです。
 
この段階の人は、自分の表現が曲解・誤解されている可能性を疑わなかったり、会話の意図が通じなかったとき「自分ではなく相手のせいだ」と考える傾向があります。
最底辺のあたりになると、巧く伝わらなかったら殴っとけばいいみたいな人も実際います。
 
絵師は、「自分の表現を相手が理解できなかったら、それは全て自分の責任」と思わなければいけません。
自分の表現が相手に巧く伝わらなかったのは、表現力が足りなかったからです。
相手には何の非もありません。
 
たとえ実際には相手が悪かったのだとしても、「巧く伝わらなかったのは自分のせいだ」という心構えを常に持つことが、表現力訓練の第1歩です。
 
おすすめの練習方法としては、まずは「多分これでいいだろう」という甘い気持ちを捨てるところから始めるのがいいです。
そういう気持ちはクオリティにもろに影響を与えるため、自分で自分の絵を見て気づきやすいからです。
 
たとえば、この2つはほぼ同じ絵ですが、右の方が少し若く見えると思います。
Bの方がほほも少し引き締まっており、顔自体が少し小顔に見えます。

 
ですが実際には、2つの絵の違いは唇の厚みだけです。
他は完全に同一で、編集ミスによる違いが生じていないことも確認してあります。
 
このイラストは横幅5センチ半くらいの大きさに描いているので、唇の厚みの差は1ミリ弱ほど。
鉛筆の芯2本分くらいの違いしかありません。
 
にもかかわらず、それだけで人物の年齢まで変わってしまいました。
なぜならば、唇が変化したことによって、絵の「意味」が変わってしまったためです。
小さなミスをスルーするということは、こういう「意図しないブレ」を放置するということになります。
 
基礎練習であるとか、ていねいに描く心構えだとか、そういう基本的なことがどんなに大事かという話。
 
もちろん意図通りの線を完璧に引くのはそう簡単にできることではないので、そこは練習をがんばってもらうしかありません。
ですがもしあなたが、小さな違いを「ま、いいや」で済ませるタイプであれば、その心構えはすぐに直せるはずです。
それだけでもクオリティに天と地ほどの差が出ます。
 
(ちなみにイラストのあらゆる箇所をミリ単位の精度で仕上げなきゃいけないかというと、べつにそんなことはなく、絵は大事な部位ほど小さなミスが目立ちます。
大事でない箇所は多少いい加減でも問題なく、この女の子の場合だと実は後ろ髪が変にこんもりしてておかしいんですが、そこはそんなに気にならないと思います。このイラストでは後頭部は重要な個所ではないからです。逆に髪を見せたいイラストの場合、唇の違いはそんなに目立たなくなります)

 

レベル1. 表現手段の幅が狭い段階

表現したいと思い、その努力をしようと決心をしたとしても、そもそも表現手段を持っていなければ何もできません。
自動車を運転したいと思っても肝心の自動車がなければ運転できないし、食べ物がなければ食べるという行為はできません。
それと一緒で、なにかを表現をするには、表現手段を持っていなければいけません。
 
だからこそ初心者はテクニックを磨くのです。
初心者が必死で基礎練習を行うのは、指の筋肉を鍛えてより美しく描けるようになると同時に、表現の幅を増やすためでもあるわけです。
 
たとえば「かわいい女の子」が描きたいと思ったときに、画一的でテンプレートな顔しか描けない人よりも、多彩な顔が描ける人の方が表現の幅は広いといえます。
また全く同じ物を描く場合でも、大きな紙でも小さな紙でも同じように描く人よりも、大きく描くときはリアルに、小さいときは相応にデフォルメして描ける人の方が、より表現力が高いといえます。
 
この段階の人は、とにかく色んなものを見て、世の中のプロがどんな技を持っているのかを貪欲にかき集める必要があります。
またせっかく集めたテクニックは、知ったつもりにだけなるのではなく、本当に必要になる前に手になじませておくのも重要です。
 
ただし基本的には今までのように一生懸命練習すればいいだけで、レベル1の人がレベル2に上がるのは、レベル0の人が1になるよりも簡単です。
 

レベル2. 正しい方法を選択できない段階

使えるテクニックが増えて、いろんなことができるようになったばかりの人が意外と甘く見ているのが、「表現方法は正しく選択できなければ意味がない」ということです。
 
特に新しい表現方法(テクニック)を覚えたばかりの段階では、とにかくそのテクニックを使いたくて仕方なくて、意味はないけどつい使っちゃった、ということが往々にしてあると思います。
ですがそれをやってしまうと、「絵の意図」そのものが変わってしまうことも実は意外と多いのです。
 
たとえばテーマが「下町のノスタルジー」のときは、イラストは全体的に暗くしないと意味がありません。
明るくするにしても、それは必要に応じて必要な箇所を明るくするだけで、ラメをぶちまけたように全体をキラッキラにしたらノスタルジーを表現できません。
ですが「高反射・高輝度描写」は多くの人が憧れるテクニックであるため、特に習得に時間がかかった人ほど、嬉しくてつい使ってしまうかもしれません。
 
そういった例に限らず、「テーマは○○だったはずなのに、そのテーマにそぐわないテクニックを使ってしまっていた」ということは意外に多く、しかも完成してから人に指摘されるまで気づかないこともけっこうあります。
最初のうちはとにかくたくさん批評をもらって気づくしかないのですが、気をつけようという意識を持つだけでも違うと思います。


これを読んでいるあなたは、もしかすると今「大したこと書いてなかった」と感じているかもしれません。
実際、表現力に対するまとめは、
 ・テクニックをたくさん習得しろ
 ・テーマを大事にしろ
 ・ていねいに描け
の3つだけ。
どれもイラストスキルの基本ばかりです。

でもそれは当たり前のことで、表現とは、こちらが思っていることを相手に正しく伝えることであり、絵を描く理由そのものだからです。
自分の絵を美しいと思ってほしいなら、美しいと思ってもらえるように描くべきという、本当に当たり前のことを言っただけです。

ですが多くの人が、その基本でつまづきます。
初心者の大部分は、表現は「相手に努力させて理解させるもの」という意識があるからです。
日本はもともとそういう文化の国だってのもありますし。
でも、他の多くの人がそうだからといって、あなたが愚かなままでいなきゃいけない理由などどこにもありません。

見る人をハッとさせるような絵も、一目で情報を伝える優れたイラストも、すべては美術の基本を極めることでしかなしえないのです。

見る人に理解してもらために必要なSWTD

自分が描いたイラストを人に評価してもらいたいと思っている人のうち、比較的多くの人が初期の段階でぶつかる壁の1つに「自分が表現したい」ものを、「どうやって見る人に理解してもらうか」が分からないという問題があります。
初心者のレベルをクリアして、これから中級者、というくらいの段階で引っかかる子が多いです。

当たり前ですが初心者というものは自分が描きたいものを描きたいように好きに描いているのであって、それは初心者として当然の権利です。
ですがそれを「他人が見ても分かりやすいかどうか」となると話が全く別になります。
なので当然、「どう描けば分かってもらえるのか」というテクニックは頭の中に蓄積していかなければいけないわけですが、そのことに関して最近、心理学研究で新しい成果があったみたいです。

人間が、目の前の状況というものをどのように認識しているか、という研究で、それを応用すれば効率的な構図設計ができるそうだったので、さっそく方法論を考えてみました。

1. 人が絵を見るとき、何を見ているのか

参照元をうっかり紛失してしまったのですが、人間の脳が「状況」というものを理解する際には、以下の4点を注視していることが分かったのだそうです。

1. どんな状況で (Situation)

2. 誰が (Who)

3. 何に (To)

4. 何をした (Do)

つまり、絵面的にこの4つがはっきりしていると、見た人が素早く理解できるということです。
これは「比較的多くの人が経験的に分かってくれる」という生易しいものではなく、脳の認識速度が物理的に速くなるというレベルの話です。

英語でいう5W1Hに近いですね。
近いけど、でもちょっと違います。
なのでここでは、上記4つの要素を合わせて「SWTD」と呼ぶことにします。
(5W1Hとの違いを明確にするために仮でSWTDという言葉を作っていますが、普段の作品制作では5W1Hで考えて問題ありません)

国語の先生が「いつ・どこで・誰が・何を・どうしたをはっきりさせなさい」とよく言いますが、これも一緒です。
要するに、人間が状況を理解しようとするときに、それらの要素を注視してるということなんです。
人があなたが描いた絵を見るときも一緒で、SWTDがはっきりしてるイラストは分かりやすいし、そうでないイラストは分かりにくいわけです。

考えてみれば、自分も含め、このへんをちゃんと明確に描けてるアマチュア絵師って、実はそんなに多くないんですよね。
特にアマチュアマンガ家が描いたネットマンガは「どんな状況で・何に」がほとんどなく、コマの大部分が「誰が・何をした」しか表現できてないというケースは非常に多いです。

2. どんな状況で

で、5W1Hでは「いつ(When)」「どこで(Where)」に該当するものですが、冒頭で述べた参照元の分からない最新研究によると、人間の脳はこの2つを「どのような状況で」という形でひとくくりにして認識しているのだそーです。

アニメで「夜の学校って、いつもと違う場所な気がするよね~」っていうお約束のセリフがありますよね。
これっていうのはつまり、人間の脳は「昼の」と「学校で」をひとくくりにし、「夜の」と「学校で」をひとくくりにするから、結果的に「昼の学校で」と「夜の学校で」はそれぞれ違うものとして認識されるということなわけです。

ですから理屈の上では、イラストには「いつ」と「どこで」が、どちらか片方だけ描かれていれば十分に分かりやすくはできるということになります。
(実際には、ストーリーイラストで「いつ」と「どこで」をどちらか片方しか描かないのはほぼ不可能ですが、ストーリー性がない絵の場合は片方ということもあります)

もちろん両方分かりやすいのが理想ですが、必要ないのに無理することはないということです。
ただ、両方あった方がいいのか、片方だけの方がむしろいいのかは見極めるようにした方がいいでしょう。

3. 何に

英語の5W1Hだと、この「何に」に相当するのは「How(どうした)」ですが、人間の脳はこういう認識の仕方はしないようです。
「状況の主体(Who)」が、「相対する対象(What)」に対して、どのような行為を行ったのかということの方を重要視するそうです。

つまり、たとえば「ラッシュ時間帯の駅ホームで、俺は立ち食いソバを食べた」という文章をイラストにする場合、従来の5W1H的な考え方だと「食べるという行為を行う」点を強調することになります。

「俺」「立ち食いソバ」「食べた」という要素が個別に存在していれば十分というわけです。
でも実際には、人間の脳は「俺」と「ソバ」がどのように結びついているかの方を重要視するというのですから、こうした方が「食べてる」感じがすることになります。

麺が見えないのに擬音語だけで「食べてる感」満載です。
たとえ麺がイラスト内に描かれていなくても、「食べてる最中の絵だから」という理由で食べてる感が増しているのです。

別の見方をすれば、イラストに迫力を出すためには、多少は現実的でない描写を使った方がいい場合もある、ということも表します。
俺は普段ソバを食べるのに「ズズズ…」なんて行儀の悪い音は出しませんし、そんなことする人も滅多にいません。
「ソバを食べるときは音が出て当たり前」と思ってる人もそう多くはないはずです。
でもそれでも、「ズズズ…」という擬音語を絵に入れてあった方が食べてる感が出るのは、「食べてる最中」であることを強調しているからです。

この考え方は、マンガの教則本にある「アクションは始まりでも終わりでもなく、その中間を描け」という考え方も補足します。
人間の脳が物事を5W1Hで認識するなら、「主人公」「悪党」「殴った」という事実自体が大事なので、アクションの開始点中間点終了点のいずれを描いても大した違いはないことになります。
それどころか、刑事の報告書のアップとかの方が、この3つの要素が全て表現されていて一番分かりやすいことになってしまいます。

もしマンガのコマが「A」だけだと、殴った結果どうなったかが分からないので、ストーリー的にもう1枚絵が必要な感じがします。
逆に「C」だけだと「なせそうなった」って感じです。
「主人公が悪党を殴った」というシチュエーションを1コマで表現できるのは、ここでは「B」だけというわけです。

4. マンガの絵作りを分かりやすくする

このサイトはいちおー超々初心者向けを謳っているので、実際に俺が勘違いしてた超頭悪いエピソードを紹介します。
同じ勘違いをしてる人がいるといけないからね。
まぁ、さすがにいないと思うけどサ…… (´・ω・`)ショボーン

かれこれもう30年くらい前ですかね。
小学校の先生から「5W1Hをはっきりさせなさい」と初めて教わったとき、俺、その先生のことこいつバカじゃねぇのって思ったんですよね。
なんでかってぇと、いつ・どこで・誰が・何を・どうしたという5要素を、一文一文全てに入れてったらキリがないからです。
そんな文章の作り方をする人、正直見たことありませんでしたしね。

えーと、イメージ伝わるかな? 要するに、

明治25年の小学校で、坊ちゃんは親譲の無鉄砲のため、で子供の時(具体的には明治15年ごろ)から損ばかりしていた。
明治11年頃に小学校に居た時分にも、坊ちゃんは学校の二階から飛び降りて、一週間ほど腰こしを抜ぬかした事がある。
いつでも、どこでも、誰でも、なぜそんな無闇むやみをしたと聞くかも知れない。
明治11年頃に小学校に居た坊ちゃんには、心に別段深い理由があるわけでもなかった。

こんな感じで、句読点が来るたびに5W1Hをいちいち全部書けと言われてるもんだと勘違いしたワケ。

まぁ、その先生はもともとちょっと考えなしな人だったので、「この人の言うことは基本的に眉唾だ」という思い込みもあったのかもしれません。
でも今はバカは自分だったと分かりますよ。
5要素が最終的に読者に伝わるように書けばよく、1文目ですでに表現している要素は、2文目以降では省略しなきゃいけなかったわけです。
当たり前だけどさ!!
小学生だったんだもん! しょうがないじゃん!(開き直りっ)

当たり前のことではあるものの、これと同じ種類の勘違いは、むしろマンガの方がしやすいのではと思います。
なんせマンガは全てのコマが絵でできてますからね。
「コマ割りが分からない」人の中には、一部、各コマに何を描けば分かりやすくなるのか分からないという人もいるはずなのです。
そういうの解説した教則本とかあんまありませんし。
(「コマ割りが分からない」という悩み自体、いくつかに分類できる根深い悩みですが、それについては次回、多少詳しい説明をします)

ようするに、マンガというのは数ページごとに「転換」があるので、それごとにSWTDの各要素を入れればいいのです。
ラノベでいえば「節」、映画では「シーン」と呼ばれる単位です。
(転換には「主体の切り替わり(カット)」と「場面自体の切り替わり(シーン)」の2種類がありますが、ここでは後者について話しています)

シーンの冒頭でロングショットを入れて、2コマ目で登場人物を描き、以降のコマはストーリーが進むことによって状況が変化した部分だけを描いていくというやり方が定番でしょうかね。
スリリングなシーンとかだと、シーン冒頭でアップショットが少し続いて、頃合いを見てネタ晴らし的なロングショットというケースも多いでしょう。

どちらにしても、シーン全体を総合するとSWTDが全て表現されている、という点が重要となります。
逆に、そのどれかが巧く描ききれなかったりすると、それが「伏線っぽさ」という形で読者の心に残ってしまい、回収しないといけなくなるわけです。

もちろんSWTDだけ完璧ならマンガが描けるわけじゃないですけど、シーン全体でのSWTDを先に決めると、以降の作業を行う際に精神的な余裕ができるのです。
(あと、「マンガはロングショットとアップショットのメリハリが重要」という話もありますが、シーン全体でSWTDがキレイに表現できていれば、ロングとアップのメリハリは自然につくから深く考えなくてよい、ということにもなりますね)

5. イラストの場合の構図設計の仕方

ペラ1枚で完結したイラストの場合も基本は同じです。
こと分かりやすさという観点では、ペラのイラストは「コマが1つしかないセリフなしマンガ」という考え方で画面設計すれば、絵をバチッとまとめることができます。
つまり、絵のテーマを1文にまとめたとき、修飾語を除いたSWTDの4つが重要な要素であり、それ以外は全て副次要素となると考えればいいのです。

初心者のうち、とりわけ構図を巧く作れない人は、「目立たせるべきもの」と「そうでないもの」の区別がついていないケースが圧倒的に多いです。
「俺のことは全部見てくれ!」と思ってるというか、むしろ自分がそういうふうに考えていることすら理解していない人も多いというか。

とりわけ要注意なのが、本来はあまり重要でないはずの要素を、初期のうちからイメージがあったからという理由で重要だと勘違いしてしまうことです。

俺自身が実際にやっちゃったミスなんですが、「パースの練習をするために近所の風景を描く」というコンセプトで描きはじめたはずのイラストに、いつの間にか「女の子」という主人公が登場して主役を食っちゃったことがあったんです。

このイラストは、実は主人公は背景の町並みの方なんです。
なんせパースの練習をするために描いた絵でしたからね。うちの近所に実在する風景です。
「くすりのハッピー太郎」の看板とか、自主的にヒットでした。

でも、「彼氏と放課後デート中の女の子」というイメージが制作の初期段階で浮かんできてしまい、そこを強調したために女の子も町並みも両方ともいまいちになってしまったのです。
女の子のイメージはほぼ最初からあったので、そこが重要だと勘違いしてしまったわけですね。
分かりやすさという観点では、「どうしても取り入れたい」という気持ちを制作者が持っているからといって、必ずしもそのアイデアが重要であるとはかぎりません。

たとえどんなに「面白い」と思ったアイデアであっても、邪魔であれば切り捨てることができるのが上級者、それができないのが初心者です。
(しかも放課後デートは学校帰りにさりげなくできるところが利点なのに、女の子ががっつりムード作りにいってて表情がエロいし。友達に見られたらどうする気だったのかな、この子)

そんなとき、いったんSWTDの文章にまとめてみると、何を描くべきで何は描かないべきなのかがはっきりします。
上記の例の場合は、
A.街中で、夕日が暮れなずんでいるところ(S「街中の夕方」W「夕日が」T「町の風景に」D「暮れなずんでいる」)
B.女の子が彼氏と放課後デート中(S「放課後に」W「女の子が」T「彼氏と」D「デート中」)
こんな感じでどっちか選べばよかったんです。

A.の場合はもっと「空」の部分を大写しにして、女の子は完全逆光にするなど、あくまで背景の一部として描かれているべきでした。
もしくはB.なら、女の子の主人公性をもっとはっきりさせて、背景は「夕日の綺麗な街」と分かる程度に留めるとかとか。
(まぁ、もともとパースの練習だったわけだから、もし今からやり直すならA.ですね。右手前の中華屋をもっと大写しにして、女の子はその建物の影のあたりでこっちに手を振ってる、くらいに留めておけば、こんなに違和感全開の絵にはならずにすんだのではと思います)

まとめると、

1. テーマを決める

2. シチュエーションを文章にまとめる

3. 作った文章から「どんな状況で(S)」「誰が(W)」「何に(T)」「何をした(D)」の4要素をまず抜き出す

4. 重要要素だけを使ってまず構図を決定

5. 重要でないその他の要素をどのように配置するかを決定

6. ラフを何枚か描いてイメージの確認

こんな感じですかね。

こういったことも、SWTDの原則を考えることに慣れておけば、比較的簡単に頭の中でまとまるというわけです。


イラストにかぎらず何でもそうですが、「分かりやすい」とはすなわち、「見てくれる人に、なるだけ脳みそを使わせない」ということでもあります。
つまり、直感的に理解できること、です。

そのために必要なことの1つが「SWTDをはっきりさせること」と言えるでしょう。

シナリオ構築の基礎

日本では、マンガ家志望者の9割以上はシナリオでつまづくそうです。

これは俺自身の個人的な経験論ではなく、漫画雑誌のプロ編集者が著書の中で言っていたことです。(八窪頼明著「おもしろさの創り方」)
その方は小学館の編集者を長くやっていた人らしいのですが、9割以上の人は、シナリオの練習をしないで描いた漫画を持ち込みしてくるそうです。

事実、ヤフー知恵袋で長年回答者をやっていても、絵師を目指す人がシナリオに関する質問をしているところは、記憶にあるかぎり2~3回くらいしか見たことがありません。
絵師の全てがマンガ家を目指しているわけではないことも考えると、基本的に絵師という人種はシナリオのことなど考えたこともない人ばかりということになります。

ですがこれって実はとっても不思議なことで、俺としては「シナリオの基礎も知らないで、どうやってストーリーイラストを描くの?」というのがすげー疑問なんですよね。
プロの挿絵画家と違って、同人のストーリーイラストは元になるシナリオから自分で作らなければいけません。
なのに、それがないのにどうやって絵を描くつもりなのかな、と。
(まぁ、俺はもともとシナリオ兼プログラマーという方向性でずっとやってて、あとから絵師に転向した手合いなので、余計にそう思うのかもしれませんが)

プロのマンガ家でも、「キャラのかわいさ」ばかりを前面にプッシュしすぎてストーリーが面白くなく、結果ヒットを飛ばせずに消えてしまう人は大勢います。
マンガは「物語を絵で説明した本」なのですから、そもそもの問題としてシナリオが書けない人がなれる職業ではありません
もちろんこれはスチルの絵師でも同じで、シナリオを理解できない人がシナリオに即した絵を描く、こともやっぱりできないのです。

てなわけで今回はシナリオの基礎の話です。

1. テーマをシナリオ向けに用意する

絵師たるもの、何か描く以上はテーマはすでに用意してあるはずですが、マンガやストーリーイラストを描く場合、立ち絵と比べてより詳細なテーマ設計が求められます。
テーマの上に乗っかってる「設定」の深掘りが必要というか。

設定をどれくらい掘ればいいかは、一般には描こうとするページ数に比例する傾向がありますが、作風によっては必ずしもそうではなく、スチル1枚を描く場合でも長編マンガ1本分の設定が必要という人はいます。
まぁ、ページ数少ないのにそう深く掘ってもしょうがないのも事実ですが、だからといってスチル1枚こっきりだから全然設定など必要ないということでもありません。

最低でも、以下のような設定をあらかじめ用意しておきたいところです。

1. テーマ(言いたいこと)

何が言いたくて物語を書くのかということです。
一般には、最終的な物語の結論が何か「教訓」めいたものなのか(教訓系シナリオ)、それとも教訓はさほどなくて「突拍子もないオチ」で推すのか(オチ系シナリオ)の2系統があります。
 
何か世間(や身近な人)に言いたいことがある人は、それをそのまま教訓系シナリオに仕立てればいいでしょう。
最初からシナリオ志望の人は基礎練習にはこちらの系統がおすすめで、オチ系はややハードルが高くなります。
ただし本人の考え方によっては、オチ系シナリオの方が簡単という人はいるかもしれません。
そこは自身の適性を見極めて決めましょう。
 
なお、「言いたいことがないなら日常系のダラダラしたシナリオにすればいい」と思う人もいるかもしれませんが、これはダメです。
簡単に書けるので初心者が飛びつきがちな手法なんですけど、知り合いでも「同人時代にダラダラ系シナリオに慣れすぎて普通のシナリオが書けず、結局デビューできなかった」という人は物凄く多いです。
(プロのマンガ家でもそういう話の作り方をする人はいますが、マンガとしてすごくつまらないか、仮にそれで一発当てても二作目が出ないか、二作目がダメダメグダグダという人の方が圧倒的に多いです。
本来、日常系というのはサスペンスアクションの一形態であり、エピソードの種類が「ごく日常的にありえ、平和裏に解決する」ものに限定された物語のことをいい、主人公の生活をダラダラ描いたフィクション日記のことではありません)

2. ジャンル

物語のジャンル(SFとか、ミステリーとか、アクションとか)は、テーマから決めます。
場合によってはジャンルを先に決めた方が楽なときもありますが、テーマが先の方がキレイにまとまりやすく、おすすめです。

3. クライマックス

クライマックスシーンとは、物語が最終的に言いたいことを数コマ(または数秒間)に収めたシーン、およびそのコマに直接つながる小節の総称です。
この工程では、教訓系の場合は「主人公にどんな葛藤シーンを演じさせるか」を、オチ系の場合は「オチをいかにドラマチックに暴露するか」を考えます。
 
シナリオ構築で一番の悩みどころで、そのシナリオがウケるもスカるもここで決まります。
ですので、テーマを決めたらすぐにクライマックスを作ってしまうのが、最終的には一番楽なのです。

4. 主人公設定

シナリオに慣れてない人は意外に思うかもしれませんが、そもそも主人公はクライマックスシーン設定から逆算して決めるものです。
あなたがすでにマンガ界の重鎮で、「自分が描けば売れる」状態になっているならいいですが、そうでなければクライマックスよりも先に主人公を作ってはいけません。
 
主人公を先に決めてから、その主人公に基づいてクライマックスを決めることももちろん可能ですが、それだと実際にクライマックスになったところで予定が狂います。
ほぼ100%おかしくなります。
 
シナリオ執筆では、「しっかりと動いてくれる描きやすい主人公」ほど、作者の意志を無視して主人公がどんどん自分から行動していってしまう傾向があるため、主人公の行動がたまたま最高のクライマックスを創り出してくれればいいですが、通常多くの場合はスカります。

5. 起こるエピソードとその他の登場人物

ストーリーは、いきなりクライマックスから始まっても、読者には訳が分かりません。
クライマックスシーンは「盛り上げる」ものであり、ただ「描く」だけではダメです。
 
ですので、クライマックスが盛り上がるようなエピソードをいくつも考えます。
マンガの場合はこのエピソードの数でページ数が決まります。
だいたいどれくらいのボリューム感で描くかも考慮しながら、クライマックスが最高に盛り上がるためにはどのような伏線があればいいのかを列挙していくわけです。
 
アクションものなどはクライマックスに入って以降のシーンにページが食われるため、それも考慮しながら数を決めます。
どちらかといえば、最初からシーン数を決めてその数だけアイデアを出すよりも、20個とか30個とかとにかく大量に考えてから最後にシーン数を決めて、「出たアイデアの中でテーマ的に適切なのはどれか」を選ぶ方が簡単です。
 
なお、スチルイラストの場合はエピソードの数は必ず1つと決まっており、間違っても複数用意してはいけません。
ですので考えるときは、大量に作ってからその中でもっともキラキラして見えるエピソードを1つだけ選びます。
スチルイラストはコマが1つしかないので、事件を複数設定しても絶対に描ききれませんし、無理に描いても見てくれる人に伝わりません。
(ただしどうしてもという場合には、最低限コマ割りをするか、またはコマ割りの代わりになるような構図設計をする手はあります)
 
また、主人公を取り巻く登場人物とか、細かい世界観なんてのもこの段階で設定します。

6. オープニングとエンディングを決める

1. ~ 5. が全てキレイに整っていれば、オープニングを考えるのは難しくないはずです。
「主人公格の登場人物紹介をきっちり終わらせること」「最初のエピソードとのつながりに不自然さがないこと」などの条件を満たしつつ、遅くとも4ページ目までに読者のハートをつかむことを意識して始まり方を決めます。
 
また終わらせ方も同様で、なるだけきれいにサラッと終わらせるようにしましょう。
エンディングシーンは「言いたいことを全て言い終わった後の物語」であるため、ダラダラと長く続けるものではありません。
「いい余韻」を残すにはどうすればいいか、ということだけ考えていればだいたい巧くいきます。
(もちろんですが、スチルイラストの場合はこの部分の作業は必要ありません)

 

2. シノプシスとネーム

上記のシナリオ構築では、ストーリーを後ろから追いかけてしまっているため、当然前から順に並べ直す必要があります。
で、このストーリー全体を前から後ろまできれいに列挙したもののことをシノプシスといいます。
略して「シノプ」といったりします。

スチルの場合、最低でもここまで決まっていれば、割と簡単に構図設計に入れるはずです。
あとはいつもどおり、構図・カラー・ポージング・アクセントなどを決定してラフ描きに入っていくだけです。

マンガの場合は、このシノプにさらに「画面演出」の設計を加えたものを描きます。
それがいわゆる「ネーム」です。

自分が考えた話が面白いかどうかを人に判定してもらう場合には、この「シノプ」や「ネーム」を見せた方がいいです。
最後まで完成させてから人に見せると、「そんなこと言われても、今からそれ修正できねぇよ」なんて指摘が来てしまいますし、ネームの方が指摘する方も気兼ねなくいろんな意見を言うことができます。

ただし編集部に持ち込む場合は、ネームではなく完成品を持っていくのがマナーです。
これは、お話の面白さだけでなく、絵の上手下手も見てもらう必要があるからです。
とはいえ優秀な編集さんであればネームから絵の上手下手をかぎ分けることもできる人もいますので、どうしてもネームの段階で見てもらいたい場合、あらかじめネームでもよいか電話で聞いておくのも手です。

3. 連載展開

長い連載用にストーリーを展開する場合でも、基本は一緒です。
まず、連載開始から終了までの大まかな流れを「テーマ」「ジャンル」「クライマックス」「登場人物」「エピソード」「第1話と最終話」という具合にざっくり決めます。

その際、たとえばテーマが「政治の難しさ」であれば、「読者に政治の難しさを分かってもらう」ために、前提となる知識を習得してもらわなければいけないはずです。
そういった要素を「エピソード」の項でいくつも列挙しておき、その1つ1つをテーマにして、各話ごとの「クライマックス」「登場人物」「エピソード」「オープニングとエンディング」を決定するわけです。


中には、「俺はマンガ家にはなりたいけど、キャラのかわいさ/カッコよさをウリにしていくんだからシナリオは必要ない」と思う人もいるかもしれません。

ですが残念ながら、プロの世界ではそんな人は必要とされません。
「同人作家としてご自由に」と思われて終わるだけです。

マンガを手に取ってお金を払う人はシナリオの面白さに1番期待を寄せているのです。
もちろん絵は美麗であるに越したことはありませんが、あくまで2番目の期待要素でしかありません。
(さすがに3番目ではなくても、少なくとも1番ではありません)

そのことを肝に銘じ、マンガを描くならシナリオは常識、と心がけることです。

視線誘導の基礎

そもそもの問題として、あなたは、自分が思ったことをちゃんと人に伝えられてるでしょうか。
今まで生きてきて、出会った全ての人々は「話せば分かる」人ばかりだったでしょうか。
「なにこいつ、なんでこんなことも理解できねぇの、ばっかじゃねぇの」と思ったことは一度もないでしょうか。

俺はあります。
仕事がコンピューターエンジニアですからね。割としょっちゅうです。
同じプログラムの同じ操作方法を何度も質問してくる人や、詳しく言うと「分かりやすく」と怒るくせに簡単に言うと「具体的には何なの」と怒る人、それからパソコンを自分でぶっ壊した形跡があることを指摘しても「何もしてない勝手に壊れた」と言い張って聞かない人など。
コンピューターエンジニアはコンピューターを操るプロであって、人に説明するスキルは専門じゃないのに、どんどん話術が鍛えられていく始末です。
(さすがにお客さんに「ばっかじゃねぇの」とは言いませんけどね……。家に帰ってチューハイの缶を開けてからしか)

ですが、絵師になったら上記のような言い訳はできません。
絵師という職業は人に物事をイラストで説明するプロですから、絵の意味が分からないのは描き手の責任です。
少なくともそういうふうに考えられる人でないと、プロとして安心して仕事を発注できません。

でもだとすると、絵の意味を説明するってどういうことでしょうね。
あなたは、自分の絵の意味(何が言いたいがために、何のために描かれたイラストなのか)を、見る人がちゃんと分かるように描けてるでしょうか?

1. 絵の意味を説明するということ

この絵がどういう意味のものなのか、を人に伝える方法にはいくつか方法があって、

1. 見てくれた人に口頭で説明する
2. 説明書きを添付する
3. 絵の中に文章で説明を書きこんでおく
4. マンガ形式にする
5. その他

があります。
ですが、街中の店頭ポスターの場合、上記のような悠長なことはやってられません。

たとえばあなたが仕事で広告ポスターを描いたとして、それがどこかのお店の店頭に飾られたとします。
具体的には、たとえばでいいので「ケンちゃんラーメン」とでもしておきます。
その店頭広告のポスターです。

するとあなたは、ただ普通に通りかかっただけの、あなたの絵に特別な興味もない人に、立ち止まってポスターを見てもらい美味しそうだなと思ってもらう必要があるのです。
そうでなければ広告になりません。

ですがそのためには、あなたが描いた絵の内容を理解してもらい、興味を持ってもらわないことにはどうしようもありません。
どうしたら分かってもらえるでしょうか。

ためしに会社の廊下でストップウォッチで計ってみたところ、ポスターを視認できる距離まで近づいた人(俺)が、ポスターの前を通りすぎてしまうまでの時間は1.3秒でした。
このときは少しゆっくりめに歩いたので、速足で歩いてる人だと1秒もないでしょう。
しかもこの通行人は、あなたのポスターのことなど見てもいないし、知りもしないのです。

つまりプロとしてポスターを描く立場になったら、自分の絵の意味を、ただの通りすがりの人に「1秒弱」という極めて短い時間で説明しなきゃいけないのです。
詳細なところまで全部は無理でも、少なくとも「立ち止まって眺める価値がある絵だ」と思ってもらわなければいけません。

ですから、文章で説明するなんて不可能です。
文字数でいうと、十分に大きな字で書いたとしても頑張ってせいぜい3~4文字が限度でしょう。四字熟語が1つ書ければいい方。

とはいえ、説明する時間がたった1秒しかないのだとしたら、わずかそれだけの時間で何ができるでしょうか?
心にインパクトを与えることができます。

2. 視線誘導とは

視線誘導とは、イラストにおける「描き手の意図を、見る人に正しく伝える」ための技術の1つです。
絵の意味を説明する方法は前述のとおり「文章で書く」などの方法もありますが、そのような悠長なことができない場合に、「人間の目の習性を利用した方法」を使います。

その方法論のことを視線誘導といいます。
見た目でインパクトを与え、目に留めてもらい、イラストを目で追いかけてもらい、そうすること自体によって絵の意味を分かってもらうのです。

具体的には、人間がもともと持っている、
1. 目立つ物には思わず注目してしまう
2. 興味のある物が現れると、より目立つ箇所から順に目で追う

という習性を利用します。

たとえば童話「桃太郎」のストーリーを視線誘導で説明する場合、「桃太郎→お供→鬼ヶ島→鬼」という順番で目立つように描き、かつ「桃太郎+お供」と「鬼ヶ島+鬼」が対立するような構図にしておけば、見た人も桃太郎というのが何なのか何となく分かってくれます。

3. 視線誘導を意識するうえで必要な要素

絵に視線誘導を盛り込むにあたって意識しなければいけない概念は以下の4種類です。
略してCOPEとでも呼びましょうか。

1. 構図(コンポジション)

三分割構図、放射構図、対比構図、枠組み構図など。
イラスト全体のうち、キャンパス内のどの場所をどのように使うかをざっくりと決めたもの。
なおシェイプ語の回で紹介した観音構図は、枠組み構図の亜種です。

2. 要素(オブジェクト)

主人公、登場アイテム、背景など、実際にイラストに登場する「物」自体。

3. 配置(ポジション)

要素の並び順。
イラスト内に登場する要素を、閲覧者に「どの順番で」見せるかを決めるための概念。
線形配置、円形配置などの比較的メジャーなものから、リズム配置などの扱いの難しいものもあります。
 
なお、他のイラスト入門サイトなどでは、「構図」と「配置」は区別されていないこともあり、ごちゃ混ぜに書かれていたりしますが、視線誘導を意識するなら明確に区別しなければいけません。
構図はイラスト全体の雰囲気を決めるのに対し、配置は要素を見せる順番を工夫することで「時系列」を生むための概念だからです。

4. 効果(エフェクト)

イラストを現実以上に美しく見せるための工夫の総称。
特に「光源の演出(ライティング)」は、高いアイキャッチ効果があるため重要視される傾向があります。

なお、この「構図」「要素」「配置」「効果」の考え方は、その1つ1つがそれだけで本が何冊も書けてしまうような難しい概念です。
なのでこのコラム1回で全てを説明することはできませんが、とりあえず今回は、今後当サイトで視線誘導の話をしていくにあたっての基本となる用語を説明しておこうと思います。
上記の項目で言うと「2. 要素(オブジェクト)」の部分の用語説明です。

ただし、ここで使われている言葉は、世界共通で仕様統一された言葉ではありません。
本によっては別の言い方をされていることがあります。

1. アイキャッチ効果

イラスト内に描いた要素が、どれくらいインパクトを持っているかを示すパラメーターのようなもの。
たとえば、「裸(特に女性)」「血」「動物」「カラフルな物」「明るい物」などは強いアイキャッチ効果を持ち、逆に「地味な普通の人」「背景と同じ色の物」などはアイキャッチ効果は弱くなります。
視線誘導では、自分が描いたイラストを一般の人が見たとき、どれくらいインパクトがあるかを意識することが重要になります。

2. メインアイキャッチャー(または単にアイキャッチャー)

通りかかった人にインパクトを与え、目にとめてもらうためのオブジェクト。
イラストの用途が「広告」「本の表紙」「pixivの投稿画」など、自分の絵に興味がない人が見る可能性がある場合は特に重要になります。
 
ノーマルな立ち絵の場合は絵の主人公がそのままメインアイキャッチャーを兼ねることも多いですが、とはいえ「人目を引く」ことそのものが目的のため、主人公のパワーが弱い場合や、アイキャッチ効果を強めたい場合は別途アクセントを用意することもあります。

3. アクセント

主人公のアイキャッチ効果が弱い場合や、主人公をわざと目立たなく配置する場合に使うイラスト要素。
手法としては、絵の雰囲気にそぐわないキャラクターなどをわざと目立つ位置に配置する、目立つ色のものをわざと目立つ位置に描く、などがあります。
 
ただし、アクセントはそもそも「主人公のアクセント効果が弱い」場合に使うわけですから、アクセント自体のアイキャッチ効果があまりに強すぎると、せっかく絵を見てくれた人の視線をアクセントのみが釘づけにしてしまい、他の部分に注目してもらえなくなる危険もあります。

4. パラレルアクセント

アクセントの強化版で、より高いアクセント効果が欲しい場合に使います。
見る人の視線が紙面の外縁のどの方向から入ってくるか分からないにもかかわらず、主人公が「紙面中央」にいて初見での注目を集めにくいといった場合に、紙面の四隅に配るなどの方法で配置します。
 
ただしアクセント自体のアイキャッチ効果が意に反して高すぎる場合、それをさらにパラレル化すると手ひどいことになります。
パラレルアクセントを使う場合、主人公自体も十分なアイキャッチ効果を持っていなければいけません。

5. リードオブジェクト

アイキャッチャーを使って視線を捕まえた人を、イラスト内のストーリーへいざなうためのオブジェクトです。
また広告ポスターの場合は、広告主のロゴや告知情報へ視線を誘導します。
 
メインアイキャッチャーよりもワンランク目立たないように描き、見る人の視線がどこから入ってくるのかを意識して、その人が見るであろう順番に配置します。
(見る人の視線が入ってくる方向は、設置場所によりますがWebであれば上・左上・左、ポスターであれば上か左、冊子の場合は横書きなら左、縦書き冊子は右からのことが多いでしょう)

6. エキストラ

イラスト自体をにぎやかな印象にする場合にのみ使う、特別なオブジェクトです。
かろうじて背景ではないと識別できる程度には目立たせますが、とはいえ、見る人の視線が意図しない方向へ走っていってしまわないよう、アイキャッチ効果はギリギリまで抑えます。
絵を見ている人の印象にはほとんど残らず、背景の一部であるかのように認識されます。
描き方によっては、背景との区別は必ずしも明確ではないこともあります。

7. バックグランド

イラストの下地。
通常は無地・または単色背景を使い、ストーリーイラストの場合は風景画を使います。
 
ストーリーイラストの場合は、「世界のものを表すオブジェクト」という立ち位置になり、要素の中でももっとも美しく描かれる必要があります。
この場合、一番美しくないといけないのに目立ってはいけないという、非常に高度なテクニックが必要になります。
考えようによっては、背景を美しく描けるかどうかが普通のアマチュアとハイアマチュアの分かれ目ともいえるのかもしれません。

4. 視線誘導がなかなか理解できない人/できる人

スキルを習得するときは何でもそうですが、視線誘導にもある程度自然に理解できる人と、なかなか理解できない人がいます。

さすがにプロ並みの技術が最初からいきなり使いこなせる人はいませんが、「何となく視線誘導できちゃってる」くらいであれば小中学生絵師の中にも結構います。
ですが逆に、大学生でデッサンは凄くいいのに視線誘導がどうしてもできない、という人もいます。

この違いは、その絵師にとって描きたいものが「キャラクター」なのか、それとも「世界そのもの」なのかという考え方の違いによるものです。

「自分が描いたキャラクターを見てほしい」というスタンスが一貫している人にとっては、背景というのはそもそも仕方なく付け足すものであり、意識しなくても何となくキャラクターよりも目立たないように描くことができます。
ですが通常多くの人は、「俺様が頑張って描いたものを全部見てほしい」という無意識の欲求があるため、つい「全てのオブジェクトを目立つように」描いてしまうのです。
そうではなく、「俺様が頑張って描いたもののうち、ここを特に見てほしい」と思うところを目立つように描かなければいけません。

とはいえ、自分の悪い癖に自分で気づけばまだいいのですが、物事に順位づけをするという感覚自体がないと、どの要素が重要で、どの要素はそうでないのかを区別することがなかなかできません。

特に要注意なのが、「テストの出題範囲を全て勉強しておけば、ヤマなど張る必要はない」と考えがちな人、または仕事で「自分に割り当てられたタスクは全て重要であり、重要度の順位づけは『しいていえば』で行うもの」と考えがちな人です。
はっきり言いますが、それはただの思考停止です

世の中のあらゆるものが重要なんてことはないし、テストの出題範囲の中にも「さほど重要ではなく、出題される可能性は低い項目」は必ずあります。仕事だっていくつもあれば「実はやらなくてもいい仕事」は絶対にいくつかあるものです。
それから、女子会などで延々とエピソードを語るばかりで会話の取り留めがない人、コレクションがなかなか捨てられない人なども同じです。
これらは全て物事の順位づけが苦手という問題に起因するものです。

もしあなたがこれから絵師として上級・プロ級のランクに行きたいと思うなら、視線誘導は絶対に避けて通れません。
ですが逆に、「テストのヤマ張りスキル」「仕事の順位づけスキル」「会話を適切にまとめるスキル」「断捨離スキル」「視線誘導スキル」が全て同じ原因に起因するものということは、本人の覚え方次第では、1つできれば残り全てできるようになるということでもあります。
(もちろん応用しようと思わなければ、応用できるものも応用できませんが)

これらのスキルは通常鍛えなければ伸びないスキルであり、最初からできる人もいません

最終的には絵師または仕事人としてのスタンスの問題にもなってしまいますが、とはいえそういう方向にまで話が膨らむのは、視線誘導がそれだけ重要な要素だからです。
少しずつでも、意識的に覚えていく必要がある、と思ってほしいと思います。

絵師必修の言語「シェイプ語」とは

絵師として初心者の域を脱すると、描きたいものを好きに描くこと以外にも「人に絵を見せる」ことにも意識が向いてきます。
今までは誰にも絵を見せないか、どちらかというと上手に描けてるかどうかの確認のために人に見せていたものが、だんだん「いいね!」という言葉をいかに巧く引き出すか、というところに視点が向いてきます。

そうすると、「何を描くか」ということ以外にも、「どう描くか」ということも気になってくるものです。

俺がそういう視点で絵を描きはじめたときには、どうやってスキルを磨けばいいのか分からず途方に暮れたものでした。
気に入った絵師のイラスト集をやたら買ってみたり、初心者向けの入門書を乱読したり、または古典絵画に手を出してみたり、伊藤若冲の分析なんて珍妙なことをやってみたり、果ては「建物を描くのに建築の勉強をする」という遠回りなことをあえてやってみたりしたものです。

この「どう描くか」の部分については、一般的な訓練方法が世の中に出回っていないこともあり、教えてくれる人がいないと感覚を理解できないことも多いです。
中には、「そこはセンスの問題だから鍛えようがない」とかアホなこと言って、せっかく何年も時間をかけて練習した絵師の道をあきらめてしまう人もいます。

まぁ、実際のところ、今に至るも効率のいい勉強法なんて見つかっていないのですケド……。
とはいえ、「初心者を脱したすぐの段階で知りたかったなぁ」と今でも思う言葉があって、それが「シェイプ語」という言葉です。

1. 世界の共通語「シェイプ語」

シェイプ語とは、分かりやすくいうと「絵に織り込むメッセージ」のことです。

俺が中学生くらいの頃、「絵にはメッセージがないといけない」と言われたときは、「絵は、地球人類に対して何か提言するような、壮大なものでなければいけないという意味だ」と勘違いしていました。
若かったもので、「メッセージ」という言葉自体をそういう意味だと勘違いしていたのです。

そこまでおバカな勘違いをする人はさすがに俺だけかもですが、絵にメッセージを織り込むというのはそういうことじゃなくて、ようするに「ツイッターのつぶやきに意味のない文章を書く人はいない」ということです。
ツイッターの短文には「眠みぃ。。。」とか書き込む人も中にはいて、そういうのを日本語では「無意味な書き込み」と表現はしますが、実際意味がないということはありません。
「眠い」という単語自体には意味があり、ツイート自体にも「自分が今眠いということを分かってほしい」という意図があるからです。

絵の場合も同じで、絵を「描く」からには誰かにその絵を見せたいという気持ちがあるはずです。
その誰かというのが自分自身であれば、多少意味不明でもいいかもしれませんが、少なくとも「あとで見たとき意味が分かる」ものでなければいけません。
人に見せるのならなおさらで、その人が見て分かるものでなければいけないのです。

そのような、あなたが分かってほしいと思っている「意図」を、言葉を使わない言語ととらえた言い方が「シェイプ語」です。
要は「キャラはシルエットで語れ」ってヤツですね。

ピクトグラム外国人向けの観光案内イラストなんかも、絵をシェイプ語として活用しようとする例です。
マンガの入門書なんかに「セリフを短くし、説明はできるだけ絵でやりなさい」と書かれているのも、「日本語ではなくシェイプ語で語りなさい」という意味です。

シェイプ語は世界共通で誰にでも通じる言葉で、普通の音声言語に比べ外国の人とも会話できる可能性はぐっと高くなります。
とても古い時代の古文書を、幼稚園児が楽しむこともできます。
通常の音声言語ではこうはいきません。
(ただし、細かな部分で方言や時代による違いみたいなものもちゃんとあって、それが違うといまいち通じないことがあるのは普通の言語と一緒です)

もちろん、「シェイプ語」という言葉を知ったからといって、今までやってきた練習に何か変化があるわけではありません。
「シェイプ語辞書」なんて便利なものがあるわけでもありません。(あったらいいなぁ。いやマジで)

でも「シェイプ語という概念が世の中にはある」ことを知ることによって、絵を描くときに「自分が描いている線は正しい表現ができているだろうか」とか「シェイプ語的にデタラメな絵になってないだろうか」とか、そういう意識を持てるようになるかもしれません。
そうすれば、より丁寧な描写を心がけるようになったり、または資料を探すときに少し楽になったりするかもしれません。

2. シェイプ語の基本は「構図」

まず、ここでは「構図」という概念をシェイプ語の基本であるとしたいと思います。
構図は、これからイラストを描こうとする際に、「このような意図で表現したい」と考えた人が最初に設計するものだからです。

ある程度のレベルの人なら基本は当然に頭の中に入っているものと思いますが、あまり背景の練習をしたことがない初心者や中級者の人には、構図の概念は少し難しいかもしれません。
たとえば以下のようなものです。

普通に女の子の絵ですね。かわいいという設定のモブキャラといったところです。
では、こうしたらどうでしょうか?

微妙な違いですが、女の子がちょっと悩んでるように見えませんか?
んで、さらにこうすると、

あなたにナンパされて困りながらも、まんざらでもない感じに見えます。
これら3つは、女の子の絵も背景も完全に同じで、位置だけ変えたものですが、女の子の表情まで変化して見えます。

「女の子の位置」というちょっとした要素にも、列記とした「意図」が隠されているからです。
(※この絵では、位置を変えただけで表情が変わって見えるよう、女の子の表情を最初から微妙な薄ら笑いにしてあります。一般的な表情表現はもっと大げさなので、通常のイラストのキャラの位置だけ変えても雰囲気はそんなに変化しません)

それから、アニメなんかの「お嬢様の初登場シーン」とかはだいたいこんな感じですよね。


真ん中にお嬢様がドーンといて、彼女が真ん中を通ると他の生徒が滝のように割れるか、大きな木の並木道がある、という形。
アニメの場合はだいたい下からパンします。

このような「中央配置の主人公」と「左右に枠となる背景」という組み合わせの構図のことを「観音構図」いいます。
登場人物の高貴さを高め、近寄りがたい雰囲気を出すために使います。
わずかにあおり構図になっている、彼女1人だけ鞄を持っていない、などの要素も、観音構図の効果を高める役目を果たしています。
(ちなみにお嬢様が登場するアニメの学校は、「校門から玄関までの道のりが一直線の並木道」という構造になっていることが多いです。これは、お嬢様の初登場シーンで観音構図を何気なく使ってしまい、あとから設定を変えるわけにはいかなくなった例も多いものと思われます)

最初のイラストが、女の子がただ真ん中にいるだけで「かわいいという設定がある」ように見えたのも、観音構図の効果です。
右寄せと左寄せの違いは微妙ですが、「左寄せ」だとどちらかといえばネガティブな状況を、「右寄せ」はポジティブな状況を表現するのに向いているとされます。

2. 細部に隠されたシェイプ語表現

今回はあくまで「シェイプ語というものがある」ことを紹介するだけのコラムなので、せっかくだから多少細かい話もします。
シェイプ語は、構図という比較的分かりやすい要素で決まるものではなく、ありとあらゆる箇所に潜みます。
描く側の心意気としては、それこそ「線1本で絵の表情は変わる」くらいの気持ちがないといけません。

たとえば以下の絵は、オーバーロードというアニメのエンディングの一幕です。
(教科書どおりのお手本のような絵だったので参照させてもらいました。実物は、描いたアニメーターの方がお疲れだったようで線がメチャクチャだったので、ここに掲載してあるのは分かりやすく工夫を入れる手間を兼ねて、俺が描きなおしたものです)

このイラストは、女性が目の前にいる相手(つまりあなた)を誘惑しているように見えるよう、細部まで工夫が凝らされています。

瞳もキャッチライトもないフラットな目

これは「意識が前後不覚状態になっている」ことを表します。
悪魔に意識を乗っ取られた人物を表現するのによく使われる技法ですが、ここでは「我慢の限界」を表すわけです。

手をほほにあてる

感情を隠し、自分を落ち着けようとする意図があります。
ですが、肝心の「目」が隠れずにしっかりとこちらを見ているため、「隠したいけど知ってほしい」というアンビバレントな感情を表現しています。
(通常は手をほほに当てる動作は、困って考え込む表現として利用されることの方が多いです)

表情

「上目づかい」は異性として好意的に思っていることを現し、かつそこに「笑み」と「赤らめたほほ」を被せることで好意の感情を強化させています。
と同時に、寄り目にすることで、この女性とその相手(=あなた)の距離が物理的に近いことも示します。

小指

90度に曲げているのは、小指を目に留まりやすくすることによって、女性っぽさを強調する表現です。
オッサンキャラが小指を立てるとオカマっぽくなるのと同じ技法ですね。
(小指を強調することでなぜ女性っぽさを表現できるのかについては諸説ありますが、個人的には、小指が重要なのではなく「指の細さ」を強調することが大事なのではと思います)

唇を強調する表現は、主にキスを連想させるためのものです。
とりわけ唇を半開きにすると、キスをねだる表情を描きやすくなります。

角は、さすがにこれはそういう設定だから付けてあるだけですが、とはいえこれ自体も、この女性の「小悪魔っぽさ」を強調する役に立っています。

このイラストでもっとも重要な要素はです。
髪は、とりわけロングヘアの場合は特に「女の武器」を表します。
それが乱れていることにより、「女の武器を振りかざそうとしている」という状況を表現しているわけです。
 
ですから、たとえば髪の量を増やしてあげると、

たったそれだけで、結婚にせっぱつまったアラサー女性が強引に既成事実を作ろうとしている絵に見えます。


このように、絵というものは、描かれた要素全てが意味を持ちます。
場合によっては、枠外にはみ出た部分や、キャラクターの背後に隠れた部分にすら意味を持たせることもできます。(閲覧者に連想させるという方法で)
逆にいえば、無意識に描いた絵であっても、「絵」として成立する以上は全ての要素が何らかの意味を持ってしまうわけです。
ですから、そういったことを何も考えずに適当に描くと、何が言いたいのかよく分からない絵になります。

とはいえ最初のうちはそれもしょうがないです。
なんせ、シェイプ語には文法などありませんし。

厳密にいえばあるんでしょうけど、それをまとめた研究書はないし、ましてや辞書や入門書など作りようがありません。(なんせ「文字」がないですからね)
仮に辞書が売ってあったところで、線1本1本が持つシェイプ語的な意味をいちいち考えて絵を描いていたら気が狂います!

なのでシェイプ語を習得するには、いろんなところから情報を集め、自分の頭の中に集積し、自在に使いこなせるように自分でなるしかないのです。
そうなるためには時間がかかるし、どっしりと腰を据えて時間をかけて取り組むしかありません。
少なくとも学生のうちに完全マスターするとかは物理的に不可能ですので、学生のうちに考えうるかぎりで限界までがんばる、くらいがちょうどいいでしょう。

とはいえ何より一番大事なのは、「自分の絵は、自分が表現したかったものを正しく表現できてるだろうか」と常に考え、正しく修正していくことです。

イラストにはテーマが絶対ないとダメという話

絵師なら誰しも、一度は「描いてる最中に筆が止まってしまう」という経験をします。
おそらく、中級者くらいの人が一番経験していて、初級者や上級者は逆に少ないはずです。

何らかのインスピレーションを得て描きはじめたはずなのに、なぜ作品として完成させることができないのか。
これについてはいくつかのパターンがあります。

・イメージがはっきりしていなかった

頭の中に、「かっこいい」「かわいい」などの漠然とした雰囲気を表すキーワードしかない状態で描きはじめた場合です。
「描いてるうちに何か思いつくだろう」と目論んで描いていった結果、結局最後まで何もアイデアが浮かばなくてその時点で筆が止まってしまうというパターン。

・作品として完成する前に、描きたいことを描ききった

最初に「線画が描きたい」という動機で描きはじめた人が、色塗りまできちっと終わらせる理由はありません。
最後まで完成させる理由が途中でなくなった――つまり、いわゆる「飽きた」状態。

・完成までの道のりに絶望した

描いているうちに「これもあれも」とイメージがどんどん追加され、途中で気力が尽きた。
これも「飽きた」の派生形です。

・途中で致命的な問題に気づき、リカバリーする手間に絶望した

根本的な問題に、ある程度描いてから気づくパターン。
振り向く角度が甘くて修正するのに全身の書き直しが必要になったり、ほぼ描き終わってから世界観にミスがあることに気づいたり。
逆に、完成間近になってから根本的なところを「変えたくなった」というパターンもありますね。

もちろん他にも人生色々あるかもしれませんが、絵を描ききれない理由はだいたいこのどれかに近い状況のはずです。

で、これらの問題を一気に解決する凄いやり方があって、それが「テーマを作る」という方法です。
つまりイラストを作品として仕上げるにはテーマがあればよく、それがないから制作に行き詰るのです。
テーマから設計をキチンと行って、頭の中で完成させてから制作に取りかかる。
そうすれば、イメージがはっきりしないまま描きだすこともなくなるし、途中でやることがなくなったり、作業がやたら増えたりといったこともなくなります。

1. ぶっちゃけ「テーマ」ってそもそも何よ

「イラストを描くならテーマをちゃんと考えなさい」という話自体は、絵の先生や先輩などからよく言われることです。
だいたいみんな、立ち絵しか描けない状態をクリアし、その先に進もうとすると急に言われだしたりします。

で、それを聞いた側が「どんなのことをテーマにすればいいのか」「仮にテーマを考えたとして、だから何なのか」といったことを悩んだりするのもいつものことです。
なぜなら先輩とかはだいたい、「テーマとは何か」という具体的な答えは教えてくれないからです。
言葉の巧い先生とかだとちょっとしたコツを教えてくれたりはしますが、明確に理解させてもらえることは多くありません。

なんでかというと、「テーマとは何か」を理解している人は大勢いても、それを言葉にして説明できる人は少ないから。
テーマというのは本質的に感覚的で直感的なものだからです。
「テーマとは何か」だなんて、そんな直感的で無形なものを定義することなんてそもそもできないのです。

ですが、絵を描く人は誰だって、初心者か上級者かにかかわらず、何を描くか決めてからペンを手に取ります。
その際には、「描きたい」と思ったものが絶対にあって、それがあるからこそ描きたいと思ったはずで、頭に浮かんだものが何もないのに絵を描こうとする人はいません。
仮にいたらその人は寄生獣に感染しています。
(これに「そんなことはない」と思った人は、本当に頭の中に何もないのではなく、自分が「描きたい」と思ったものが何なのかが曖昧なまま作業を進めてしまうという問題を抱えていることになります)

描きたいもの、頭に浮かんだもの、絵を描く際の原動力になるもの。
でもそれは必ずしも言葉にできるものであるとは限りません。
漠然とした雰囲気であったり、最終的に表現したい風景であったり、キャラクターの表情であったり、ストーリー上の大団円であったりと、浮かべるイメージも絵師によってバラバラです。

でもそれが「テーマ」なんです。

2. テーマの考え方

全ての絵に必ずテーマがあるのなら、だったらなんでテーマで悩む人がいるのか、ということになります。
テーマが浮かばなくて悩んでいる人は大勢いますが、描きたいものが何もなくて悩んでいる人というのはそんなに多くありません。
「テーマ」と「描きたいもの」が同じならば、テーマで悩む人の数と、描きたいものがなくて悩む人の数も同じでなければいけないはずです。

にもかかわらずテーマで悩む人の数の方が圧倒的に多いのは、テーマは「自分が描きたくて、かつ他人にもウケるもの」でなければいけないからです。
初心者のうちは「自分が描いてて楽しいもの」をテーマにするので、だからテーマで悩むことはそんなにありません。
自分がよければそれでいいし、初心者のうちはむしろそうあるべきです。

でも中級以上になってくると必ずしもそういうわけにはいかず、たとえば「友達」「美術部の先生・先輩」「即売会のお客さん」「pixivの閲覧者」などなど、他人が喜ぶ絵を描く必要性が出てきます。
ですから、中級以上の人は無意識のうちに「身近な人が評価してくれそうなテーマ」を探そうとします。
でもそんなの都合よくパッとは浮かんでは来ませんから、だから「テーマに悩む」なんてことが起こるわけです。

3. ネタ帳を大事にしよう

んで、具体的にテーマを考える方法論ですが、ぶっちゃけネタ帳を持ち歩けばいいんです。
テーマというものは、ペンを持てばいつでも都合よく湧いてくるものではありません。
なので、プロを目指すんだったらネタ帳は大事にしてください。

逆に、ネタ帳を持とうとしない人は商業美術はできません

一部の美術の先生で「テーマに悩んだらどうすればいいか」という質問に、「深く考えちゃダメ、心に浮かびゆく衝動をそのまま表現すべき」と答える人がいますが、これはプロとしてありえない愚かな答えです。
自分がポリシーとしてそう思うのは自由ですが、教え子にまでそのような価値観を押しつけるような先生には、俺としてはオナニーはおうちに帰って布団の中でやれと言ってやりたいところです。
漫画編集者やゲームディレクター・広告デザイナーなどの美術を使って商売をしている人達は、だいたい「ネタ帳を持て」と新人に教えることが多いようです。

「これはネタになりそうだ」と思ったことのほか、アニメを見てて「もっとこうだったらよかったのに」と思ったこと、そこまでいかなくても何となく街で見かけて「いい」「いやだ」と思ったもの。
普通に暮していれば、そういったものが必ずあるはずですから、それをメモしましょう。

通常は、そういった雑多なインプレッションのようなものはすぐに忘れてしまいます。
ですからすぐにメモすることが大事です。
一般には、そういうネタの類は思いついてからおおむね1分以内に忘れてしまうといわれていますので、なるだけすぐに書いてしまいましょう。
(ではお風呂で思いついてしまったら? 急いであがって濡れたまま裸でメモをとるか、でなければ忘れないように呪文のように繰り返すか、とかですかね……)

もちろんメモったところで、そのうちの99%はネタとしては使いません。
なんせ、思いつきの殴り書きですからね。
よくよく見たら実際には使いようがなかった、というケースの方がほとんどになるはずです。

でも、だからといってメモること自体に意味がないことにはなりません。
たとえ単体ではネタに使えなくても、組み合わせればネタになることだってあるし、自分の好みの方向性を分析するための資料として使ったり、もしくは「メモする」という行為自体が記憶力や発想力の訓練になるといったメリットもあります。

ノートを持ち歩くこと自体が邪魔くさい人はスマホを使えばいいだけのことで、つまりネタ帳を持つことによるデメリットなど何もないのです。


実際のプロの製品づくりでは、ただテーマを決めただけではダメで、テーマの決定、最終的な製品イメージの構築、足りない要素の補完、世界観・シナリオ・構図・要素を決定など、数多くの工程があります。
本当に大事なのは、本当は「テーマ」ではなく「正しい設計」です。
でもそれを全て説明するにはブログ1回ではとても足りないので、続きは追々書いていきます。

とはいえ、製品作りの全ての基礎になるのが「ネタ帳」というのは確かなことです。
そもそもテーマをちゃんと作れない人が、正しい設計を行うことなんてできません。

イラストの基礎が「デッサン」とするなら、テーマ構築の基礎は「ネタ帳」です。
基礎練習を放棄することが絵師失格であるのと同様に、ネタ帳を持つのが面倒くさいと思うこともまた絵師失格レベルのことです。
それはまず心しましょう。